第7話 誕生
「やっておしまい!」
GOOAU
口から漏れたのは奇妙な音。
だがそれで意思は伝わったらしい。
リリスナイトとエビルフェアリーが農民たちに襲いかかる。
彼らの鋭い槍と魔法の矢が、無防備な農民たちに容赦なく降り注ぐ光景は、どこか悪夢めいた光景だった。
リリスナイトたちが先陣を切り、エビルフェアリーたちが遠距離から支援する。
俺は、エビルフェアリーの魔法攻撃が先に着弾するだろうと思っていた。
だが、意外にも、リリスナイトが最初に槍を投げ始めた。
命中率はそれほど高くないが、その威力は圧倒的だった。
空を切る槍の音が、あたりに響き渡る。
そのうちの一本が、無防備に立ち尽くしていたリム氏の背中に吸い込まれるように突き刺さった。
日々の農作業で鍛え上げられた彼の肉体も、その一撃には耐えられなかったようだ。
リム氏は無言のまま、地面に倒れ込む。
彼が息絶えるのを見ると、俺の心の奥底に、冷たい満足感が広がるのを感じた。
リストに載せていた復讐の対象が、一人消えた。
この復讐の道のりは、まだ始まったばかりだが、確実に前進している。
だが、今回の襲撃の目的は復讐だけではない。
これはあくまでも威力偵察の一環だ。
リリスナイトとエビルフェアリーたちをその場に残し、俺はひとまずダンジョンに引き上げることにした。
200匹もの部隊全員の視界を共有するのは、思った以上に疲れる。
疲れが押し寄せてくる一方で、どんどんと俺の中に流れ込んでくるDPダンジョンポイントが、心地良くもあった。
農民たちや衛兵たちが倒されるたびに、その命の残滓が、俺の力として還元されていく。
しばらくして、衛兵たちが動き始めたらしい。
偵察隊の数が徐々に減り始めたのを感じた。
だが、これは想定内のことだ。
これ以上無駄な戦いをするつもりはない。
俺は念話を使い、偵察隊に指示を送る。
「無理して衛兵と戦わず、サルシュを探せ。」
衛兵を取り囲んで戦っていた偵察隊は、俺の指示に従い、戦いを避けてサルシュの行方を探すように動き始めた。
それでも、何組かの偵察隊は、戦闘を余儀なくされたようだ。
そのたびに、強力なDPダンジョンポイントが流れ込んでくる。
強さに比例して、その倒された者から得られるエネルギーが増していくのを感じた。
日が沈み、夜の闇が街を包み込む。
俺の偵察隊は、闇に紛れてさらに動きを活発化させた。
偵察隊の減少も、ようやく落ち着いたようだ。
そのとき、遠くから強い信号を感じた。
俺は意識を集中させ、その正体を探った。
そこにいたのは——サルシュ。
奴は自分の屋敷の奥で、豪勢な酒宴を開いていた。
笑い声が響く屋敷の中、サルシュは自信に満ちた笑みを浮かべている。
彼にとって、これが最後の晩餐になるだろう。
「サルシュ、これで終わりだ。」
俺は偵察隊に引き上げの命令を送り、その後、第4層にギガントオーガを召喚した。
翌日、夜陰に紛れて俺は一人でサルシュの館へ向かった。
昨夜の偵察隊からの報告によれば、かなりの人数が館に出入りしている。
どうやらサルシュの勢力は、さらに増しているようだ。
一年という歳月の中で、奴の力は確実に膨れ上がっている。
奴のダンジョンでの採掘や採集も、その一端を担っているに違いない。
館の周囲には物々しい警備が敷かれていた。
俺は館の外で身を潜め、内部の動きを伺った。
これだけの警備を見れば、魔物を嗾けても大きな犠牲を強いられるだろう。
それよりも、奴をダンジョンへ誘い込んで有利に戦いを進める方が賢明だ。
俺は魔物たちの視界からだけでは掴めない情報を探し、そっと館の中を覗き込んだ。
何やら室内が騒がしい。
声を忍ばせ、窓の隙間から中を覗いてみると——
「姉さん!母さん!今助ける!!離せぇぇぇ!!」
叫ぶ少年が、二人の女性に向かって身を乗り出している。
少年の左右には、冒険者ライルと冒険者ダウが立ち、彼の腕を拘束していた。
「ほう、元気の良い小僧だ。」
室内に響くのは、サルシュのいやらしい声だ。
ゴテゴテとした装飾に身を包んだ彼は、さらに肥えた肉体を揺らしながら、嬉しそうに微笑んでいた。
「旦那!大人しくさせますか?」
「この細っこい腕をポッキリって手もありますぜ。」
ライルとダウが、楽しげに提案する。
だが、サルシュは冷静だった。
「いや、これもまた一興だ。どんな反応が見られるか楽しみじゃないか?母親と娘、どちらが先が良いかね?」
ネットリとした視線を、天井から吊るされた二人の女性に向ける。
その女性たちは鎖で手錠を掛けられ、身動きが取れない状態だった。
彼女たちは細身の体で、苦しげにサルシュを睨みつけている。
先程の少年の言葉から察するに、彼女たちは母親と娘なのだろう。
「こんなこと、許されるはずがないわ!ロウはどこ?主人はどこにいるの?」
母親が気丈にも問いかける。
サルシュは楽しそうに笑いながら答えた。
「旦那の居場所が知りたければ、素直になることだ。悪いようにはしないよ。むしろ、今までのように土にまみれて生きることなく、もっと楽な暮らしをさせてやろう。まずは二人とも、足を大きく開いてもらおうか。」
その言葉に、母親は汚物を見るような目でサルシュを睨み返した。
だが、彼女の気丈な姿勢はすぐに崩れることになる。
「いつまでそういう口が聞けるかな?ダウ、やっておしまい。」
「了解しました。」
ポキュッ
奇妙な音がして、少年の左手の小指が、逆方向に曲がった。
「ガアァアアアアグウゥゥアアアアアア!!!」
少年は苦痛の声をあげ、床に倒れ込む。
その声に、母親と娘も動揺する。
「やめて!もうやめて!レントには手を出さないで!」
姉は涙を流しながら叫ぶが、母親は毅然として彼女を制止する。
「ジーナ!レント!我慢よ!ロウがきっと助けに来るわ」
母親は毅然とした表情で続けた。
「こんな奴らに屈したら、一生心を砕かれて這いつくばって生きることになるわ!」
号泣する娘と絶叫する息子に対して、母親は気丈にも激を飛ばす。
サルシュはその様子を見て、楽しげに口角を上げた。
「どうやら少し気が立っているようだね。お腹が減っているのか?先に食事にするかね?」
不敵な笑みを浮かべながら、サルシュは手を叩いた。
「パンッ!パンッ!」
その音と共に、部屋の奥から数名の男が現れた。
彼らは大鍋を引いてきて、その鍋からは何とも言えない異様な臭いが漂っていた。
「おいっ、食事だ!ゴルスさん、例のモノを運んでちょうだい!」
サルシュが声をかけると、魔導師ゴルスと格闘家ジウが、鍋を転がすようにして部屋に運び込んできた。
リストの上位陣が揃っている。
「さて、これから楽しい宴が始まるぞ。」
サルシュは鍋を見つめながら、興奮を抑えきれない様子だった。
俺はその光景を見て、ますますサルシュの極悪非道ぶりに怒りが湧き上がってきた。
だが、同時に、その狂気的な悪の姿に、どこか惹かれる自分がいるのも感じていた。
鍋からは漂ってくる臭いと共に、まさかの展開が予感された。
「食事?バカ言わないで!そんな余裕があるなら、レントの手当てをしてよ!」
母親は怒りに震えながらサルシュに訴える。
しかし、その声も大鍋が運び込まれた瞬間に押し黙ってしまった。
その場の空気が一変した。
「アグッェゥゥ!かぁ、かぁさんをはなせぇぇ!」
「うるせぇ、大人しくしてろ!」
ボキュッ!!
親指が無理やり折られる音が室内に響く。
少年の苦悶の声とともに、ライルがさらに彼をねじ伏せる。
少年の顔は血にまみれ、苦痛のあまり叫び声をあげる。
「何なの?この臭い……食べ物じゃない?!」
泣きじゃくっていた姉が、鍋から立ち上る異様な臭いに顔をしかめる。
そして、彼女の視線が、鍋の中から突き出た一部に注がれた。
そこには——
母親の目が鋭く光り、その視線が固定される。
「いや……嫌よ……そんな……まさか……」
母親が見ているのは、鍋の端にしっかりと握られていた手。
それは、煮えたぎる鍋の中から覗く一部で、その手の薬指には薄汚れた指輪が光っていた。
「え?……ロウ?え?ロウ……?」
彼女の言葉は、信じられない現実を前に、震えていた。
鍋の中にあるのは、彼女の夫であるロウの手。
それを理解した瞬間、母親は絶望に打ちひしがれた。
「旦那のご馳走だよ。心を込めて調理してやったんだ。」
魔導師ゴルスが冷たく笑いながら言い放つ。
格闘家ジウも、その横で肩を回しながら、まるで遊びの延長のように笑っている。
「さぁ、愛しい旦那様が助けに来てくれると言っている奥方に、まずは今晩のご馳走を差し上げよう。」
サルシュが冷酷に命じると、ゴルスが鍋から肉を取り出し、椀に盛り付けた。
椀の中に盛られたのは、旦那の頭部だった。
その顔は、彼の死に際の恐怖をそのままに残していた。
「ああ、あなた、お帰りなさい。遅いから心配してたのよ……レントがグズって大変だったのよ……」
母親は、椀の中の頭部に向かって話しかけている。
その目にはすでに光はなく、彼女は狂気の淵に立たされていた。
「旦那、駄目だ。この女、壊れちまったぜ。」
ダウが冷たく言い放つが、サルシュはそれを無視して興奮を抑えきれない様子だった。
「うあああああ!!!コロスッ!殺してやるぅぅぅぅ!!!」
突然、少年が暴れ出した。
その狂気的な叫び声が部屋中に響き渡る。
「少し元気すぎるな。ちょっと大人しく横になってろ。」
ライルとダウが少年を組み倒し、彼の両手両足に剣を突き刺した。
「ァ………」
あまりの痛みに声も出せないのか、少年は軽く身体を痙攣させ、そのまま地面に横たわった。
「レントッ!誰かっ!すぐに止血をっ!母さんっ!しっかりして!」
姉は手錠に繋がれた手をガチャガチャと動かし、血の滲む手首も気にせずにもがきながら叫んでいた。
だが、母親はその声に反応せず、虚ろな表情でただ椀の中の夫の頭部を見つめていた。
「ジーナ。レントが起きてしまうわ。大きな声を出さないで。それよりも、父さんが帰って来たのよ。お帰りなさいは言ったの?」
虚ろな表情で娘に話しかける母親。
絶望の表情を顔に張り付かせながら、母と弟を交互に見つめる姉。
その姉に小刀を片手に近づくサルシュ。
「ほれ!動くな!傷ついても知らんぞ!弟を止血して欲しいんだろ?すぐに治癒魔法士を呼んでやる。さあ、足を開くんじゃ。」
サルシュは冷たく言い放ちながら、小刀で姉の衣服を手早く切り取った。
その手際の良さから、この行為が常習的であることが伺えた。
サルシュから漂ってくる悪臭は、窓際に立つ俺にまで届いた。
「ううう……ごめんなさい。父さん、母さん、レント。ごめんなさい、ごめんなさい……」
姉は涙を流しながら、絶望の表情で足を開いた。
「おお、良いぞ良いぞ!」
サルシュは嬉しそうに笑い、さらに興奮していた。
「エレレルさんを呼んでくれ。それから水と油もだ。」
ゴルスとジウが部屋を出ていき、数分後に戻ってきた。
その間、姉は抵抗することなく、ただ無力にされるままだった。
「ふむ。やはり従順すぎると興が削がれるな。エレレルさん、少年に治癒魔法を。ジウさん、水をかけてやってくれ。ゴルスさんはジーナさんに油を。」
「姉さん!うああああああ!!!」
サルシュは冷酷に命じた。
僧侶エレレルの杖先から、淡い光が放たれ、それが少年に降り注ぐ。
次第に、少年の傷口からの出血が止まり、傷が塞がれていく。
だが、治癒された少年はすぐに再び苦しみ始めた。
少年は再び絶叫し、何とかして姉を助けようともがいていたが、両手両足に突き刺さった剣によって、身動きが取れない。
サルシュは無視するかのように、さらに恍惚とした表情を浮かべ、命令を続けた。
「ジウ、奴に水をぶっかけろ。目を覚まさせてやれ。ゴルス、油をかけて、そいつを光らせてやれ」
ジウが無造作に水をぶっかけると、少年は苦痛と混乱に満ちた目で周囲を見回す。
目の前にいる姉が、ゴルスによって油をかけられ、滑るように妖しい光を放っているのを見つけると、少年は激しく暴れだした。
「レント!見ないでっ!!」
「やめろぉぉぉ!!!」
怒鳴り声とともに、少年は力を振り絞るようにして抵抗するが、傷ついた体では到底叶わない。
サルシュはそんな少年の姿を見て、ますます楽しそうに笑った。
「やっと面白くなってきたな!」
サルシュは自分の衣服を脱ぎ捨て、恍惚とした表情でジーナに近づいていく。
サルシュの気持ち悪いまでの熱意に、ジーナは絶望と恐怖に震えていた。
「お願い……許して……どうか……」
ジーナは泣き叫びながら必死に許しを乞うが、サルシュは容赦なく彼女に手を伸ばした。
「さて、ではいただきますよ」
その瞬間、少年の絶叫がさらに大きくなった。
「やめろおおおあああ!!!殺すぅううう!!!あああああああああああああああおおおおおおおおおううううううああああああ!!!力を!!俺に力をおおおお!!」
その声はただの叫びではなく、どこか異様な力を帯びていた。
少年の全身から、何か目に見えない力が渦巻き始めたかのようだ。
そして、同時に俺にも異変が起こった。
※注意※
「契約依頼が来ています。承諾すると保有DPダンジョンポイントを一時的に全失します。また契約内容によっては、併せて肉体変化、魔物の消失などが発生します。」
悪魔契約
<承諾>
<拒否>
画面に現れた選択肢が、俺の意識に迫ってくる。
目の前で繰り広げられる惨劇を止める力を持つか、それとも見過ごすか。
<承諾>←
「ピコッ」
俺は迷うことなく承諾を選んだ。
魔人
<悪魔契約仕方>
<悪魔契約する>
<悪魔契約仕方>←
「ピコッ」
「契約方法」
契約依頼が来たら承認し、契約者と繋がった念話にて、契約内容を決めてもらう。
契約者の了承が得られれば契約成立。
「契約内容」
<魔力譲渡>
DPダンジョンポイントの譲渡により肉体強化
DPダンジョンポイントの譲渡量は決められる。
譲渡量が多いほど強化される。
肉体強化度 小
DMダンジョンマスターへの従順度 小
契約者自我 大
<魔族転生>
一度死に、ダンジョンで魔族として転生復活
保有するDPダンジョンポイントの全てが必要となる。
肉体強化度 中
DMダンジョンマスターへの従順度 中
契約者自我 中
<魔物融合>
ダンジョンの魔物との融合により大幅な肉体強化
保有するDPダンジョンポイントの全てが必要となる。
肉体強化度 大
DMダンジョンマスターへの従順度 大
契約者自我 小
念話ねぇ。
<少年よ、力が欲しいのか?>
俺は少年に念話で語りかけた。
<誰だ!?>
<お前に力を与えられる者だ>
<誰でも良い!姉さんと母さんを救う力を!父さんの恨みを晴らす力を!>
<ふむ、力を与えるにも種類があってな>
<何でもいいっ!姉さんがっ!>
サルシュが急に押し黙った少年に気付くと、ライルに声をかけた。
「ふむぅ、急に静かになってしまいましたねぇ。一番盛り上がるシーンなんですが、ライルさんちょっと君も母親に油をかけて参加しなさい」
「待ってました!」
ライルは血走った目で迅速に服を脱ぎだす。
「そんな!母さんをこれ以上傷つけないでっ!私だけで充分でしょ!」
姉が声を上げるが、聞こえないかのように粛々と準備を進める悪党共。
<早く!早くしてくれっ!>
<では、手短に、まず、あなたに力を与えるには3種類の方法がありまして、それぞれ段階をあがるごとに強さが上がっていきます>
<一番強い力を!あいつらを止めさせてくれ!父さんのかたきを!>
<強くなるということはそれだけリスクもあります、リスクの説明もさせていただきますね>
「良い尻をしている、たまらんなぁ」
「い、いや!やめてぇ!」
サルシュがいよいよ実食直前だ。
「旦那!こちらも準備オッケーですぜ!」
「ロウ…私恥ずかしいわ……」
ライルの準備も整ったようだ。
「うおおおおぁあああああ!!!やめろっぉおおおお!!!」
少年は叫ぶ。そして念話でも叫ぶ。
<早く!早くしてくれ!とにかく最強の力を俺に!>
まぁ、本人の希望だからもう説明は良いでしょう。
<悪魔契約仕方>
<悪魔契約する>
<悪魔契約する>←
「ピコッ」
<魔力譲渡>
<魔族転生>
<魔物融合>
<魔物融合>←
「ピコッ」
次に融合する魔物を選ぶ画面が現れた。
<ブラックスライム>
<ガラスビー>
<マイクロワーム>
<エビルフェアリー>
<リリスナイト>
<ギガントオーガ>
……。
少しのいたずら心で、無害そうな<ガラスビー>や<マイクロワーム>を選んでしまおうかと頭をよぎったが、ここでの悪ふざけはあまりにも少年に酷だ。
彼は今、全てを賭けて復讐を望んでいる。
最強の力が必要だと叫んでいる。
「よし、望み通り最強の力を与えてやろう」
<ギガントオーガ>を選んだ瞬間、少年の体が急激に変化し始めた。
その目には狂気と怒りが渦巻き、体は見る間に巨大化していく。
体中の筋肉が肥大化し、皮膚が赤く変色し始めた。頭には四本の鋭い角が突き出し、見るからに恐ろしい姿へと変貌していく。
「姉さんから離れろぉぉぉ!!」
少年の叫びとともに、その体はもはや人間ではなく、ギガントオーガそのものへと変わりつつあった。
彼の怒りと憎悪が肉体に反映されるように、体が膨張し、筋肉が肥大し、体全体が15メートルもの巨体へと変わっていった。
ライルとダウはその異常な変化に気付き、怯えたような表情を浮かべた。
「だ、旦那……あいつ、様子がおかしいですぜ……」
ライルはサルシュに報告するが、サルシュはまだ状況を把握できていないようだった。
「なんだ?怖気づいたのか?」
サルシュが冷やかすように言った瞬間、彼の表情が凍りついた。
目の前で少年が2メートルを超えた時点で、その右手にはすでにダウの頭が握られていたのだ。
左手には足がぶら下がり、その巨大な手の中で無残に体が引き裂かれていた。
「グルアァァァァ!!ゴオオアアア!!」
少年の口から凶暴な咆哮が響き渡り、部屋中に衝撃波が走った。
サルシュは腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
「ひぃ、ひぃぃぃぃ……!」
彼の体は恐怖に震えていた。
少年は成長を止めず、5メートルに達した頃には、室内に収まらないほどの巨体となっていた。
彼は姉と母を繋ぐ鎖を簡単に引きちぎり、そのまま窓の外に放り投げた。
俺は空中で姉と母を受け止め、悠然と笑みを浮かべた。
「あああああ、あく……あくま……」
姉は俺の黒光りするデーモンの姿を見て、震えながらそう呟いた。
彼女はすぐに気を失ったが、俺はその姿を気に留めることなく、目の前で展開される少年の暴走を見守っていた。
ザシュッ!
ゴフヒュ!
ザシュッ!
ゴフヒュ!
俺は素早く動き、サルシュの部下たちを一人ずつ始末していった。
既に剥き出しの姿となった姉と母を食しながら、俺は少年、いや、<魔人 レント>の成長を楽しんでいた。
彼の体はついに25メートルに達し、全身が筋肉で覆われ、黒い髪が揺れる。
その目には復讐の炎が燃え盛っていた。
「ウガァァァァ!」
魔人レントは足を振り下ろし、一撃で館を半壊させた。
その瞬間、俺の体に流れ込んでくるDPダンジョンポイントが凄まじい勢いで増加していく。
館にいたサルシュの部下たちも、その一撃でほぼ全滅したのだろう。
「ウオオオ!!ガアアア!!ウファ!!」
魔人は次々と拳を振り下ろし、館を完全に粉砕していった。
建物の下敷きになった冒険者や兵士たちの姿は見えず、ただDPポイントだけが俺に流れ込んでくる。
「ウガッ!ウガッ!ウガッ!」
レントは崩れた瓦礫をさらに破壊し続け、まるでその憎しみを館にぶつけるかのように、何度も拳を振り下ろしていた。
その姿はまさに魔人と呼ぶにふさわしい。
俺はその光景を眺めながら、極上の晩餐を楽しんでいた。
サルシュの館は完全に崩壊し、俺の手に多くのDPが流れ込んでくる。
この感覚は中毒性があり、病み付きになるほど心地よかった。
辛うじて生き残った者も、虫の息で逃げ惑う者も、全て魔人レントによって粉砕されていく。
彼は手加減を知らず、全ての者を完膚なきまでに叩き潰していた。
「優秀な魔人だ」
俺は心の中でそう呟きながら、さらに一口、姉の肉を噛み締めた。
この状況が、まさに俺が望んだ完璧な復讐劇だった。
サルシュの一派は滅び、俺はその力を存分に吸収している。
重畳、重畳。
俺は満足そうに微笑み、目の前で繰り広げられる破壊の饗宴を堪能し続けた。
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