第4話 竜

森から首を出し、周囲を見渡す。デカイ。

なんだか天下を取った気分になるな。

これだけデカイと、逆に森の中を見るのが不自由するなぁ。

首を縮めて一言。


「 おーい!誰かいるかー? 」


そう言ったつもりだった。


**GUGYAOOOOAAAOOO**


声が大きすぎ、威嚇しすぎだ。

森中から轟音が響き渡り、自分の足元から無数の生物が遠ざかっていく足音が聞こえる。

多数の羽音が響き、首を伸ばすと、空を埋め尽くす鳥たちが四方八方へ逃げて行くところだった。


そんなつもりはなかったんだけどな……。


DPダンジョンポイントを使い、洞窟を作る。

直径2メートル、深さ4メートルの洞窟が出来たが、明らかに小さい。

首しか入らない。

モグラの時には10メートルほどの洞窟が同じポイントで作れたので、何らかの補正があったのだろう。


まぁ、入れないものは仕方がない。

とりあえず、DPダンジョンポイントもなくなったし、横になる。


翌日、DPダンジョンポイントを使ってスライムを召喚。

狭いダンジョンの中で動き回っている。

草も設置しようと思ったが、ポイントが足りない。

明らかにダンジョンの拡大にマイナス補正がある気がする。

これだけ強固な肉体を得た代償なのだろうか。

背中の羽を動かしてみたが、飛ぶことはできない。

ダンジョンレベルが上がり、成長すれば飛べるようになるかもしれないが、今は仕方なく歩いて移動することにした。

遠くに見える山脈まで、歩き続ければ着くだろう。


しかし、遅々として進まない。

歩くスピードが遅すぎる。

木々が邪魔で、体が大きすぎるせいで、まるで迷子のようだ。


ドラゴンといえば、口から火を吐けるはずだ。気張ってみたら、出た。

山脈に向けて扇状に緑色の火が燃え広がる。

火の大きさは10メートルほどだったが、雨が降っているわけでもなく、乾燥した時期なのか、火の勢いが衰えることなく、どんどんと燃え広がっていく。

途中、いくつかの生物が焼け死んだのか、DPダンジョンポイントが流れ込んできたが、ドラゴンの肉体にはそれでも足りず、成長することはなかった。


焼け跡になった森の後を歩いていく。

いくつか村のような建物の焼け跡があり、人らしき丸焼きも散見される。

地面はまだ少し燃えているが、丈夫な身体のおかげで少し温かい程度だ。


しばらく歩くと、前方の森で不自然な雨雲が現れ、火が徐々に消えていく。

このまま燃え跡を通って山脈まで行く計画が……。


雨で濡れた森から、100人ほどの集団が現れた。

どうやら人間ではない。

火矢や氷の矢、風の刃が飛んでくる。

全身が彼らの攻撃にさらされるが、流石ドラゴンだ。

痒い程度で痛みさえ感じない。

軽く切れた皮膚もすぐに塞がる。


近づいてみると、鬼のような形相でエルフたちが悪態をつきながら攻撃を加えているのを確認した。

エルフたちの森だったのか、途中で見た村の焼け跡や人らしき丸焼きは彼らのものだったのだろう。

俺は彼らにとって復讐の対象ということか。


前衛の攻撃に気を取られていたが、後方に目をこらすと、手を繋いだエルフたちが作る輪の中に、巨大な光の魔法陣が現れていた。何をするつもりだ?


集団との距離が30メートルになったところで、弓兵の間から20名ほどのエルフが両手を前方に突き出し、最前列に出てきた。

突然、俺の足元の地面が盛り上がる。

後退する俺の前に土壁が次々と高くなり、15メートルほどの高さで止まった。


「 ドラゴンパーンチ!キーック! 」


俺は土壁にパンチやキックを浴びせる。

所詮は土塊だが、さすがに一撃では粉砕できず、少しずつヒビが入っていく。

やっと首が通るほどの穴が開いたと思った瞬間、先ほどの魔法陣から巨大なリヴァイアサンが出現した。

土壁部隊は両手を天に向けて詠唱を重ねている。


急いで土壁を壊そうとするが、尋常ではない雷雨の中、土壁の表面が泥状になり、衝撃が伝わりにくい。

リヴァイアサンは雷雨の中で水を浴び、俺に向かって圧縮水流を放ってくる。

最初は拡散していた水流が次第に集中し、土壁を貫通して俺の身体に穴を開け始めた。

俺が開けた土壁の穴から圧縮水流と毒矢が打ち込まれる。


まずい状況だ。

焦って口から火を吐いたが、穴の向こう側に届いた火は前衛の何人かを焼き焦がすと、豪雨の中ですぐに消火された。

その前衛たちも後方に引きずられ、治癒魔法をかけられているようだ。もたもたしているとまた前線に戻ってくるかもしれない。


「 お宝素材発見!! 」


雷雨の中、背後から大音声が響き渡る。

振り返ると、満面の笑みを浮かべた男が立っていた。

金色の髪、身の丈以上の大剣、筋肉で肥大した肉体。

それでも、俺からすれば小さな存在だ。後ろを取られるのは嫌な気分だ。踏み潰してやろう。


右脚を上げ、男の頭上に踏み降ろした。


**スパーン!**


風船が破裂するような音と共に、俺の右足が弾け飛んだ。

理解するより先にバランスを崩し、右に傾く身体が泥の中に突っ込み、顔まで埋まる。


血まみれの男が全身に俺の返り血を浴びながら近づいてくる。

笑っているのだろう。口元の白さが目に焼きつく。


「 思わぬ臨時収入だぜ!悪いが、素材になってもらう! 」


躊躇なく大剣が俺の脳へ突き立てられる。

激痛が頭を貫く。死が近づくのが分かる。だが、??? 左足が切り落とされ、苦痛が確かに感じられるが、死なない。頑強な肉体が、永遠とも思える激痛をプレゼントしてくれる。


「 そう簡単に死ねると思うなよ!87390。俺は何十年も斬り殺してきたんだ。どこが急所か、どこがギリギリの場所か、熟知してるんだよ!どうだ、苦痛の味は? 」


男は笑いながら俺を切り刻む。手、腕、尻尾、腹……次々に襲いかかる激痛。


「 87390?何だ? 」


問いかけようとするが、身体は動かず、首がわずかに揺れ、口からは嗚咽のような音しか漏れなかった。


**GUGYAGUGYAGAAA**


「 おっと!この状態でまだ抵抗する気か?大したもんだ! 」


男は嬉しそうに、手、腕、尻尾、腹を次々と切り刻みながら、楽しげに話しかけてくる。

俺の体はもうほとんど動けない。それでも、男の声だけが不気味なほど鮮明に響いていた。


「 さて、そろそろ安らぎを与えてやるぜ…… 」


男が俺の目の前に立ち、冷笑を浮かべながら、右目に剣を突き立てた。

激痛と共に、右目の視界が失われる。


「 お前、何者だ…… 」


俺は問いかけるが、返ってくるのはいつものように、低く響く声だけだ。


**GYAOO**


「 あ?まだ声が出せるのかよ。根性あるじゃねぇか!俺の名はロイゴック、孤独で臆病な戦士さ! 」


男は笑いながら、自分の名を告げた。

ロイゴック。

この名前、覚えておこう。

俺の復讐リストに入れることに決めた。

だが、その時、意識はどんどん薄れていった。






「 リトライ 」


視界が真っ暗になる中、再び現れたのは見慣れた選択肢だった。


<YES>

<NO>


このまま終われない。ロイゴック、必ず復讐してやる。せめて、俺の復讐リストは真っさらにしたい。俺は迷うことなく「YES」を選んだ。




再び始まる。


<生き方>

<生きる>


俺は再び「生きる」を選び、復讐のために新たな挑戦を始める。今度こそ、もっと強い存在にならなければならない。次の系統を選ぶ画面が現れる。


<アニマル系>

<人系>

<魔物系>

<妖精系>

<植物系>

<昆虫系>

<ランダム>


今度は迷わず「魔物系」を選んだ。


次に現れたのはさらに細かい選択肢だ。


<インプ型>

<オーガ型>

<サイクロプス型>

<ゴブリン型>

<オーク型>

<ドラゴン型>

<スライム型>

<サキュバス型>

<デーモン型>


今度は「デーモン型」を選ぶ。直感が告げている。

これが今の俺にふさわしい姿だ。




気がつくと、俺は町の上を飛んでいた。

翼を広げ、暗い空の中を羽ばたく。

イメージ通りの悪魔の姿になっている。

鋭い角、漆黒の翼、禍々しい気配を漂わせた姿。

これだ。

やっぱり、ダンジョンマスターとしての基本は、この姿な気がする。


今度こそ、俺はロイゴックに復讐する。

そして、もっと強大な力を手に入れるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る