第2話 農民が来た


「うひゃぁ!!」


草を摘み取っていた農民ルックさんは、突然上空から何かが落ちてきた瞬間、悲鳴を上げた。彼の頭はスライムに包み込まれ、手足がバタバタとしばらく動いていたが、最後に痙攣を見せると急に静かになった。


「スライム、やったな」


俺はスライムの働きぶりを称賛した。

スライムはルックさんをゆっくりと消化し始め、透明な体を通してその様子が見えるのは少々グロテスクだった。

消化の過程で泡が立ち、内部が徐々に溶けていく。

その光景は、あまりにも生々しく、1時間ほどかけてルックさんの骨までも完全に分解した。

最終的に、ルックさんが持っていた小さな小刀だけがスライムから吐き出された。


「さて、これはどうしようか」


吐き出された小刀が地面に沈んでいくと、視界に選択肢が現れた。




「小刀」


<設置>


<合成>


<熟成>


<賭>




とりあえず、「設置」を選んだ。




<設置>←


「ピコッ」




ダンジョンの中央に小刀を設置すると、土塁が現れた。

どうやら宝箱のようなものではなく、土塁の中に小刀が埋まっているようだ。

だが、ありがたみがあまり感じられない。


ルックさんの命が消え去ると同時に、かなりの量の「DPダンジョンポイント」が流れ込んできた。

このポイントを使って、ダンジョンを40メートル拡張し、スライムを10匹召喚、さらに草を10平方メートル分配置した。

ルックさんのおかげで、ダンジョン内が急に賑やかになった。


「ありがとう、ルックさん」




翌日、スライムたちを数えていた。

1匹、2匹、3匹……ん?何かがおかしい。

スライムの数が増えている。


俺は一日中、スライムの動きを観察しながら、草を配置していた。

ルックさんが摘み取っていた場所にも再び草が生い茂っていた。

どうやらこの草は生命力が非常に強いか、ダンジョンの恩恵を受けているようだ。


観察を続けると、いくつかのことが分かった。

スライムには雌雄がないこと、彼らは集団で固まって移動すること、そして草を食べて一定以上成長すると、分裂して2匹に増えることだ。

草をダンジョンの最奥まで配置すると、スライムたちの行動範囲も広がった。

しかし、草のない脇道には興味を示さないようで、嗅覚のようなものが働いているようだ。




次の日の早朝、再び町人が訪れた。


「農民 リム」


今度の訪問者は、いかにも農民という風貌のリムさんだ。

彼の手は農作業で鍛えられてゴツゴツしており、日差しにも負けない麦わら帽をかぶっていた。

素朴な顔つきからは、人の良さがにじみ出ていた。


「前回はルックさんの命を奪ってしまったけど、今回は草をたっぷり摘み取ってもらって、無事に帰ってもらおう」


そう思い、様子を見守ることにした。


「こりゃぁ、驚いた!こんなに薬草が生えてるとはなぁ!」


リムさんはずかずかと洞窟内に入り、草を引っこ抜くと、いきなり口に突っ込んだ。


「ふむ、これはちょっと……」


ん?まずいのか?期待していた反応と違ったので心配したが、リムさんはさらに草をもぐもぐ食べ始めた。


「これは薬草というよりも、食用として最上級だな!」


草を食べながら、リムさんは満面の笑みを浮かべた。

その言葉に安心し、俺はさらにダンジョン内に草を配置していく。

スライムたちも喜んでいるようで、草の間を動き回っていた。

リムさんが摘み取るのを見守りながら、俺は内心で喜んでいた。


「これで、サルシュの旦那も大喜びだろうな!」


リムさんは草を大量に摘み取り、洞窟から満足げに出て行った。

サルシュさんという人にこの草を届ければ、宣伝してくれるかもしれない。

そして、その噂が広がれば、次々と町人がやってくることになるだろう。

俺はリムさんの背中を見送りながら、胸が高鳴るのを感じた。




これで、町人が定期的に訪れるようになるかもしれない。

ダンジョンの成長は間近だ。

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