テストと打ち上げ③
「それでは!全員40位以内に入ったことを祝して…かんぱーい!!」
『かんぱーい!』
「かんぱーい?」
亜美だけちょっとわかっていない状態だが、とりあえず打ち上げは始まった。
「それにしてもまさか本当に40位以内に入れるとはなぁ。二人のおかげだ。」
「ほんとほんと!もう無理だと思ったけど、しーちゃんは教えるの上手だし、パパの予想問題はドンピシャだし!」
俺は亜美にあーんをしながら話を聞く。
確かに予想問題は8割くらいドンピシャだった。
アレは奇跡だった。あんなにうまくいくことは中々ないだろう。
「にーにのパスタ美味しい!」
「そっか。嬉しいなぁ。」
よしよしと撫でてやる。
「狡いです!私も亜美ちゃんにあーんしたいです!」
「いやいや、これは兄の特権だよ?」
「将来の姉ですよ!?」
「ふむ。仕方ない。今日は譲ってあげる。」
確かにそうなる可能性は高い。他に候補もいないし、きっと現れることもないだろう。
仕方ないから役目を譲ってあげる。
「ねーね!ステーキ!」
「はい!あーん!」
「あーん!美味しい!」
「はわぁー!」
パクッと口に入れて笑顔になる亜美。悶える静香。それを写真に納めた。
アレ?これって亜美の誕生日パーティだっけ?
「ちょっと三人とも!?イチャイチャしてないで私たちにかける言葉はないの!?」
「そうだそうだ!」
あっそうだったわ。
亜美の可愛さに忘れ去られてた。
「二人ともよく頑張ったね。」
ピザを口に運ぶ。ソースを煮詰めすぎて不安だったけど美味い。
「それだけ!?私のことも撫でて!?」
「そうだそうだ!」
光輝がそうだそうだBotになっちゃった。てかその子は君の彼女なんだから君が撫でなさいよ。
「ダメです!智己くんのナデナデは私と亜美ちゃんの特権ですよ!?」
聞き捨てならないと静香が前のめりになる。
特権かどうかは置いておいて、そもそも千紗を撫でたことはない。アレ?なんで俺は静香の頭を普通に撫でているんだ?ふと思い考え込む。
「二人とも今回は何とかなりましたが、ウチの学校は3学期制です。つまりはテストが一年に6回あります。中間が2回、期末が3回、そして学年末。その平均で40位以内です。間宮さんは未だに危険域。千紗だってギリギリですよ。今回はよく頑張りましたが、これを継続させなければいけません。はい、亜美ちゃん?あーん。」
「あーん!」
ニコニコと二人で笑うが、その発言は中々に辛辣である。
「マジ?」
「終わった…。」
二人がしょぼーんの顔文字みたいになってる。
可愛いから写真を撮っておく。ぱしゃっと音が鳴る。うん。なかなか良いじゃないか。ってか諦めるの早いな。
「亜美ちゃんは今日も可愛いね!本当天使!」
「ねーねも可愛いよ!」
「きゃわー!」
こっちはこっちで盛り上がってる。記念に一枚。いいね。抱きしめあって姉妹みたいだ。
「まぁ、とりあえず40位以内に入れるだけの地頭があったのは収穫だよ。本気なら毎週金、土は泊まりで勉強を教えてあげる。静香が。」
どうやら俺は教えるには向いてないらしいし。
「まぁそうですね。智己くんの家には常に私がいるので。特別ですよ?」
静香は亜美にすりすりしながらにやけ顔でそんなことを言う。いや、常にいるは語弊が…ないか。いるわ。ここ毎日いるわ。
「やったー!現地取りました♪もう引っ込められませんよ?」
「君ほんとそのアニメ好きね。」
「勝ったッ!第3部完!」
「いや一部どこいったよ。いやネタは分かるけども。君たち仲良いなぁ。」
料理はどんどんと無くなっていく。
「そう言えば君たちの誕生日とか知らないわ。ここで親睦をかねて情報公開としないかい?」
「いいね!では僭越ながら私から!」
千紗が立ち上がる。なんだか合コンみたいなノリになってきちゃったよ。
「鈴木千紗!B型。誕生日は6月6日。好きなのはこーちゃんとパパとしーちゃんと亜美ちゃん!スリーサイズは…」
「言わせねぇよ!?」
思わず突っ込む。
「やぁん!パパったら、情熱的ツッコミ♪」
「おい。きみの彼女だろ?なんとかしなよ。」
「知らないのか?暴走列車に自ら突っ込む奴はいないんだぜ?」
「イケメンの笑顔が眩しいな畜生!誰かこの子にアルコール出してないよね!?炭酸しかないはずだけど!?」
ツッコミも疲れる。本当に疲れる。きゃっきゃっと亜美が笑う。静香はさっきから亜美に夢中だ。誘惑されるよりはずっといい。
そのまま静香のことは亜美に任せたい。
「順番的には俺か。間宮光輝。O型。誕生日は7月21日。一応千紗の彼氏。好きな事はバスケ。こんな感じでいい?」
「あぁ。完璧。千紗は彼氏を見習おうね?」
「ダメだよこーちゃん!これは合コンなんだよ!?埋もれちゃうよ!?」
「彼氏同伴で合コンにくるやついる!?いねぇよなぁ!?」
「はは!パパってば超似てるぅー!」
ダメだこいつ。早くなんとかしないと。
「ねーね?合コンて何?」
「さぁ。あの子はアホな子なので、気にしちゃめーですよ?」
「わかったー!」
二人の言葉を受けて千紗が胸を抑える。
「うぐ!痛かった!今のは痛かったよ!?」
「言ってること全然わかりません。ねー?」
「ねー!」
笑顔で笑う姉妹の光景。この二人だけが癒しな気がしてきた。
「じゃあ私ですね?片山静香。A型。誕生日は12月24日。因みにクリスマスと一緒にしたら許しません。ギルティーです。智己くんの妻で、亜美ちゃんの姉です。ねー?」
「ねー!」
クリスマスと一緒にされたことがあるような言い振り。後半はスルーしよう。触らぬ神に祟りなし。
「佐藤智己。O型。誕生日は9月9日。好きなことは料理。以上。」
「好きな人は〜?」
「ちょっと黙って!?」
地雷を踏むなよ!?
「ぐす。私の事は遊びだったんですか…?」
マジ泣きじゃん。まだ付き合ってないよね!?
「し、静香と亜美。これでいい!?」
「へへ。」
「えへへ。」
何この二人、可愛いじゃん…。何なの…。
「私は!?」
「俺は!?」
なんだこいつら。この二人は置いておこう。
「亜美は亜美だよ!誕生日は10月…21!みんな好きー!」
ぐふ!可愛すぎて意識が飛びそうになった。
千紗と光輝ですら胸を押さえている。静香なんて見せちゃいけない顔をしてる。そっと涎を吹いてあげた。
「誕生日が近いのは千紗か。なんかする?」
「やったー!今日みたいにここでパーティーするー!」
「近所迷惑ですよ。」と静香がいい、
「そうだな。」と光輝が頷き、
「そうだね。」と俺が同意する。
「扱いが酷い!?」
ガーンと千紗が落ち込む。
「あはは!」
亜美が千紗の反応に笑う。
「毎年恒例だけど、ウチでBBQかな。」
光輝が口を開く。
「それはいいね。場所確保ありがとう。」
「BBQ!」
亜美が目を輝かせる。この前のがよっぽど楽しかったのだろう。
「それ私行っていいんですか?」
静香が恐る恐る言う。
「主賓だろ?」と光輝。
「主賓だね。」と俺が頷く。
「主賓は私だよ!?」と千紗が叫ぶ。
「しゅ…ひん?」と亜美が首を傾げる。
「主賓はイベントの主役だね。誕生会であれば誕生日の人が主賓だよ?この場合はさーねぇの誕生日だからさーねぇが主賓で主役だね。」
静香が亜美に説明する。
「何となくわかった!」
「すごい!天才!」
静香が亜美を抱きしめてスリスリする。癒されるなぁ。
そんなこんなで千紗の誕生日の予定も決まって、俺たちはケーキを食べた。
時刻は21時。
静香と亜美がお風呂に入り、亜美が寝たところでお開きになった。
「今日も泊まりたいよー!」
「ダメだ。母さんに怒られる。それに美紗さん怒らしたら泊まりに来れなくなるぞ。」
千紗の顔が青くなる。
「帰ろう。今直ぐ。うん。」
どうやら怒ったら怖いらしい。
「気をつけてね。」
「お気をつけて。二人とも。」
二人を見送る。二人とも笑顔で帰って行った。
「じゃあ智己くんの部屋に行きましょうか。」
「そうだね。経営学やる?」
「はい。テストも終わりましたし、本格的に学びたいです。」
本気で学びたいらしい。正直嬉しい。
その後2時間ほど俺達は黙って本を読み進めてベッドに入った。
直ぐに抱きしめられる。そして頭を撫でられる。柔らかい感覚と優しい匂い。
「今日は楽しかったですね。」
「あぁ。毎日賑やかに過ごしたい。亜美だって辛い記憶を思い出さなくて済む。」
両親が亡くなった直後は毎日泣いていた。あの二人が来るようになって笑顔が増えて、静香が来るようになって甘えられる相手ができた。
「俺はまだ君を幸せにできる自信がない。」
「智己くんは考えすぎです。一緒にいるだけで幸せなんです。今なら毎日私を撫でて、キスをして、体を好きにする権利をあげますよ?どうです?お買い得ですよ?」
「通販みたいな言い方するじゃん。」
苦笑して顔を上げる。
「もう少しだけ、時間をもらいたい。」
「いいですよ。待つので一つだけお願いを聞いてください。」
「何かな。」
ぐるんと体が回転して、押し倒した格好になる。静香が横を向く。
「口付けしてください。貴方から。」
頷いて頬にキスを落とす。また体が回転する。
顔が胸元に押し付けられる。頭を撫でられ、眠気が意識を奪いにくる。
「おやすみなさい。大好き。」
「あぁ…俺も…君が…。」
言い切らずに意識を失う。夢は見なかった。
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