二人で料理
買い物を終えて部屋に戻ってくると、静香が二人の前に座ってノートを指差している。
流石というべきが彼女はしっかりとお願いを果たしてくれていたようだ。
亜美はまだ寝ているようで、ソファーに横になっている。
「お帰りなさい。」
振り向いて微笑む静香の笑顔に胸が跳ねる。
彼女の事を意識しすぎだ。一つ息を長く吐いて冷静になる。
「ただいま。留守番ありがとう。」
静香の頭を優しく撫でる。その手がまた頬まで持っていかれる。暖かく、柔らかい。
「お帰り…父さん。」
「待ってたよ。パパ…。」
なんだか二人がゲンナリしている。
1時間も経ってないんだけどなと苦笑する。
「ただいま、二人とも。頑張ったみたいだね。今日はこれくらいにしようか。」
俺の言葉に二人が力尽きたように机に伏す。
それを横目で見ながら苦笑して、今度は亜美の頭を優しく撫でる。
「静香。亜美を起こしてあげて。食材を冷蔵庫に閉まってくるから。」
静香に微笑むと、静香も頷いて微笑み手を離してくれる。
亜美を任せてキッチンに向かう。
今日は値下げされていた豚ひき肉で餃子。明日はカレイの煮付けだ。
餃子は亜美の為にニラは抜く。その代わりにサラダは用意する。
今日使う材料を並べ、明日使うものはしまう。そんなことをしているとパタパタと足音がした。
「にーに!」
抱き着いてくる亜美を受け止めて撫でる。その後ろから静香が歩いて来る。
「ゆっくり寝たか?」
「うん!ねーねが起こしてくれた!ねーね好き!」
「そっか、そっか。」
優しく撫でて顔を上げると静香が顔を真っ赤にしていてドキッとする。
「亜美。ねーねは俺と料理をするから二人と遊んでいてくれるかい?」
「わかった!」
パタパタと駆けていく亜美を眺める。手招きをすると静香がぱぁと笑顔になる。頭を優しく撫でてあげる。静香がこれを好きなのはもうわかっている。
「えへへ。」
顔を赤く染めながらすり寄ってくる。
「今日は餃子だ。手伝ってくれる?」
「勿論です!」
笑顔で応えてくれる静香と共に夕飯の準備を開始した。
自分たちの分なら気にしないが、人に食べさせるのでビニールの手袋を付ける。
「すりおろした生姜、ニンニク、砂糖、醤油、酒、ごま油、塩コショウを入れて混ぜる。分量は俺は計らないけど母さんが残したレシピがあるから後であげるね。」
「嬉しいです。お母さまのレシピがあるんですか?」
「あるよ。俺の部屋にあるから今夜渡すよ。」
さり気なく今夜と言ってしまったが、夜に部屋に誘うのはセクハラではなかろうか。そんなことを考えていると静香は顔を赤らめる。
「じゃあ今夜も一緒ですね。」
その顔と言葉はずるい。
「そう…だね。君がいいなら。」
顔が熱い。一緒に居たいからとかもっと相応しい言葉はあるんだろうけどそんな事は俺には言えない。
「えへへ。嬉しいです。」
だから何なのこの子。理性とぶって!
「と、とりあえず皮に包もう。やったことある?」
「無いです。お母さんが包丁は危ないからって料理は教えてくれなかったんですよね。この前の電話でそれを謝られました。過保護すぎてごめんなさいって。」
まぁその気持ちはわかる。俺も亜美にやらせるのは怖い。作ってくれる人がいれば料理をする必要はないし。
「そんなに難しくないからやってみようか。」
「はい!」
手本にまず自分の作り方を見せる。
「タネはこんもり盛るとあまり入らない。空気も入っちゃうからね。コツは平らに盛るといい。好みで小さく切ったチーズを入れる人もいる。」
「こうですか?」
静香の乗せ方を見る。少しだけ肉が多いかもしれない。
「うん。良い感じだけど少し肉が多いかもね。」
スプーンで少し掬ってタネを再度平らに伸ばす。
「こんな感じで…。」
顔を上げるとキスできる距離まで顔が近づいていた。
「あっ…。」
静香の声にさっと離れる。しまった。手元を見ていて距離感を間違えてしまった。
「ご、ごめん。」
「ううん。有難うございます。やってみますね。」
微笑んで静香はまた餃子づくりに集中し始める。心臓がうるさい。遠くから聞こえる亜美、光輝、千紗の笑い声で気をしずませて、俺も餃子づくりに集中した。
そろそろ包み終えるタイミングでケトルでお湯を温める。
「今沸かしている水には意味があるんですか?」
「あるよ。蒸し焼きにするんだけど、冷たい水だと仕上がりがべちゃっとするんだ。だから熱湯を使う。」
「そうなんですね。」
「ネットとかで調べると出てくるよ。母さんのレシピにも載ってなかったから俺もネットで調べたんだ。大体のレシピだってネットにあるからわざわざ俺に教わる必要もないんだけど…。」
静香が俺の言葉を聞いて首を振る。
「佐藤家のレシピじゃないと意味がないんです。私が料理を作りたいのは智己くんと亜美ちゃんなので。」
そんなことを言われると普通に嬉しい。
「じゃあ手取り足取り教えないとね。怪我でもされたら大変だ。」
「はい。私がケガをしない様にちゃんと見ててくださいね。」
大きな目が上目遣いで俺の目を覗く。ごくりと生唾を飲んで頷くと、彼女は嬉しそうに笑った。
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