少女と妹
智己くんが買い物に行って、私は亜美ちゃんと遊んでいる。これが今私にできる最善だ。
でも亜美ちゃんと遊んでいても考え事をしてしまって少し集中できずにいる。
考え事とは自分のポンコツさだ。
目下一番悩んでいるのは智己くんとの距離感だ。異性との距離感が全くわからない。
理由は明確だ。男の人なんて嫌いだった。
だから近寄ってこないように威嚇して、突き放してきた。だから距離感がわからない。
最初は手を繋ぐくらいにしようと思ったのだ。
それだけでも幸せでドキドキした。
でも千紗が智己くんの近くにいるとイライラしてしまう。ついつい暴走してしまう。
千紗は私より智己くんと仲がいい。当然だ。手をこまねいていたのは私だ。私が悪い。
頭では分かっているのに態度に出てしまう。
どうしたらいいかわからない。
この感情は嫉妬だ。ヤキモチだ。
(こんな感情が私にあるなんて…。)
知らなかった。苦しくて怖い。彼を独り占めしたくて仕方ない。唯一の例外は亜美ちゃんくらいだ。亜美ちゃんだけが私の癒しだ。
「ねーね?」
声をかけられてハッとする。
「ごめんね。ちょっとだけ考え事してたよ。」
「大丈夫!」
亜美ちゃんが私の方にかけてきて膝の上に乗る。可愛すぎる!天使すぎる!ぎゅーと後ろから抱きしめると亜美ちゃんは笑う。
「ねーねはにーにの事好き?」
突然そんな事を聞かれて動揺する。
小学生の好きはどういう意味合いなのかわからない。この1ヶ月毎日この子とお話しした。もうこの子がいないと寂しいまである。だから大好きなこの子に嘘はつかない。
「うん。好きだよ。優しくて暖かくて、そしてあの綺麗な目が好き。」
「そっかー!じゃあ押して押して押しまくらないとね!」
「えっ!?」
驚きから声が大きくなる。
「ど、どういうこと?」
「ママが言ってたの!にーにはどん…かん?なんだって!あとねー、じこ…じこ…じこなんとかが低いから相手は苦労するって!」
自己評価の事かな?それとも自己肯定感?たぶんどちらかだ。
「秘密だよ?にーにに素敵な女性ができたら教えなさいってママが言ってたの!だから教えてあげるね!亜美はねーねの事気に入っちゃったから!」
天使すぎてやばい。語彙力を失う程の可愛い笑顔。この子は天から降りてきたのかもしれない。
「押して押して押しまくる…。」
「うん!そうだ!にーにが必ず寝ちゃう方法を教えてあげるね!」
亜美ちゃんが立ち上がって私の頭を胸元に抱き寄せる。そして優しく頭を撫でてくれた。
こんな風に頭を撫でられたのはいつぶりだろう。そうだ風邪を引いた時にお母さんがよくやってくれた。
「にーには大変な時ほど頑張っちゃうの。だからこうやって寝かせてあげるんだってママが言ってた。亜美もやってみたけどダメだった。ありがとうは言ってくれたけど寝なかったの。だからねーねがやってあげて!」
胸元…。正直ちょっと恥ずかしい。スタイルには自信があるけどはしたない気もする。
ううん。これは私が守りに入っているだけだ。
先程手を合わせたお仏壇に目を向ける。
お母様の写真が優しく微笑んでいる。
私にできるかは分からないけれど、当たって砕け…たくはないけど、それくらいの気持ちで近づいてもいいのだろうか。
亜美ちゃんの顔を見る。天使の笑顔を私に向けてくれる。
「うん。頑張る。私頑張るよ!」
「うん!」
亜美ちゃんが頷いて抱きついてくる。その頭を優しく撫で続けた。
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