少女はお隣さんが気になる
男の人は嫌いだ。
私の体を無遠慮に見てくるから。
街を歩くだけで声をかけてくるから。
話す時にジロジロと私の胸を見る視線が嫌いだ。私の口はそこにはないのに。
私はスタイルがいい。顔もどうやら美人の類らしい。でもスタイルを維持しているのはオシャレをしたい自分の為だし、顔は生まれつきだ。
男受けするために身に付けてるのではない。
そんな私には気になる人がいる。
佐藤智己くん。
同級生でお隣さん。
彼と初めて会ったのは部屋の前だ。
最初はどうせこの人もと思ったけれど違った。彼は真っ直ぐに私の目を見て微笑んだ。
その綺麗な瞳から目を逸らせなかった。
挨拶をされて挨拶を返す。
ただそれだけなのに心臓が煩かった。
自然と彼を目で追うことが多くなった。
彼と話すとドキドキと心臓が煩くて、上手く話せない日々が続いた。1ヶ月の間も距離を縮めることもできなかった。
街を歩いていると、たまに人助けをしている彼を見かける。腰の悪そうな老人、小さな子供、道に迷った外国人。
その相手は多種多様だ。
彼は困っている人を助けてしまう人のようだ。損な性格をしていると思う。
学校でも同様に人助けをしている。
そんなことをしても時間を失うだけで、益もない。だからついつい思った事を言ってしまった。
嫌われるかもしれないと思ったけれど、妹の為に時間を使って、人助けにも時間を使って、彼が疲れて倒れるよりは嫌われ者になるのも悪くないと思った。
彼は苦笑しながら優しい人間でいたいと言った。なんて優しい人なんだろうと思った。
家事を教えて欲しいと言ったのは建前だ。
部屋の掃除はちゃんとしている。
洗濯機くらいなら回せるし、掃除機だって使える。下手だけど服もたためるし、食事はお金を払えば何とかなる。
けど彼の横にいれる方法が思いつかなった私は家事を教えて欲しいと頼んだ。
亜美ちゃんといるのは楽しい。ずっと話していれるくらいだ。だから亜美ちゃんを見るというくらいなら彼の手助けが出来るかもしれない。
そう考えていた私は自分の浅ましさを直ぐに知ることになった。妹と二人暮らしなのは知っていたから、複雑な家庭環境なんだと最初は思っていた。けれど彼は両親と死別していた。その中で気丈に亜美ちゃんと生活している。それを知って、尚更私も彼のために何かしなければと思った。
明日からは彼がお弁当を作ってくれるらしい。なんだか申し訳なさに頭痛がしてきた。
でも断るのは何か違う気がして頼んでしまったのだ。
私にできることはなんだろう。
やっぱり亜美ちゃんに関することだろうか。
もっと何か…。そうだ。真面目に料理を教えてもらって、将来的に二人のご飯を作って上げるのはどうだろう。そう考えてやる気も出てきた。同時に過去の自分に嫌気が刺した。
私は両親からの愛情を沢山もらって甘やかされて育った。過保護だったと言っても良い。
だけどそれに甘えて生活能力を向上させる事を蔑ろにしてきた。
正直内面だって素敵な人間ではない。
(変わらないと…。)
合鍵に触れる。彼の微笑みが頭から離れない。ドキドキと心臓が高鳴る。もしかしてこれが恋なのかもしれない。
初めての感情に戸惑う。
「智己くん…。」
呟いて、顔が思い浮かぶと心が跳ねる。
これは本格的に不味い。
こんな浅ましい感情を持っていることがバレたらもう微笑んでくれないかもしれない。
そんなことになったら泣いちゃう。
恋人は要らないって言ってるのを聞いてしまったけどアタックはしたい…。
(そして可愛いって思って欲しいな…。)
そう思った私は化粧台に向かってお気に入りのリップを置く。
(明日はこれをつけていこう。気づいてもらえるといいな。)
自分のためにオシャレをしてきた私は、自然と彼のためにオシャレをしようと考えている事に気づいて驚いた。
(これが恋…。うん。素敵な感情だ。)
目を閉じる。彼の微笑みを思い返すと気持ちよく眠りにつけた。
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