ふたり
東さな
ふたり
「ピアス開けるの手伝って」
彼女にそう言われたのが1週間前。最初は断ったけれどどうしても、と言うから渋々。
「ねえ、なんでピアスなんか開けようと思ったの?」
「え〜?だって、祐樹とおそろいにしたかったんだもん」
彼女の指が、僕の左耳にあるピアスに触れる。
「これ、いいよね」
「うん」
「ちょっと前に付けてたやつなら、似た雰囲気のイヤリング持ってるよ」
「知ってる」
随分前に、彼女が近くの雑貨屋で見つけたと嬉しそうに報告してきたのを覚えている。
「イヤリングでもいいんだけどさ」
「うん」
「祐樹が今付けてるの、イヤリングにはないデザインのだからさ」
「うん」
「私が右に開けたらいっしょの付けれるかなぁって」
「そっか」
本音を言えば、彼女には身体に穴を開けてほしくない。それでも、やって、とせがまれれば頷くことしかできず。
「……耳、冷やして」
「はぁい」
この子は本当にわかっているのだろうか。透き通るような白肌も、長いまつ毛も、ふわふわとした栗色の髪も。全てが彼女の美しさを引き立て、この上なく愛しいと思ってしまう僕のこの気持ちをわかっているのだろうか。
「ね、まだぁ?」
彼女の急かす声で現実に引き戻される。ピアッサーを耳たぶに当て力を込めれば、パチン、と音がした。
「どう?できた?」
「うん。いい感じ」
にこりと彼女が笑うと同時に風鈴が鳴った。
「ふふ、暑いねぇ。あ、そうだ」
「なに?」
「祐樹はどうして左耳に一個なの?」
「……守るべき存在がいる象徴だから」
あぁ、花言葉的な?と言う彼女は、まさかその守りたい存在が自分であるとは気づいていないだろう。
「夏純は?どうして右にしたの?」
彼女はちらりと僕の目を見て、それから答えた。
「これはね、祐樹のピアスが欲しいなぁって意味があるの」
そんなの、いつでもあげるのに。そう思い左耳からピアスを抜いた。
「夏純、これ」
彼女の手のひらにそれを乗せれば、ぽかんとしたあと嬉しそうな顔をするものだから、僕もつられて頬が緩む。
「安定したら、たくさん付けるね」
「うん。そうして」
今はまだピアスしか渡せないけどいつか指輪もあげるから。それまで待っていてほしい。
上手く口に出せない僕は彼女の髪を掬い、そっと口付けた。いつかふたり、ひとつになれたら。
ふたり 東さな @a_sana
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