第13話 アカデミー2日目
透と詩音は、エレベーターに乗っていた。
二人の距離は、微妙にあいている。
「……一緒にいた女性は誰ですか?」
「んー、ナイショ」
「Vtuber?」
「うん」
詩音は何者なのだろう。
烏丸ではないけど、透は彼女の正体が気になってくる。
前世もVとして活動していたことは知っている。
本人のオーラからは想像もつかないが、もしかしたらVtuber界の大物な気がしてくる。
アカデミーの2日目も、多目的室①で行われる。
初日は自由な席を選んでよかったが、2日目は席が決められていた。
透は決められた席に座る。
隣の席は、金髪美少女の神里だった。
今日の授業が何を行うのかは聞かされていない。
持ち物として連絡があったのは、Vスマホだけだ。
机の上には、資料が置いてあった。
ペラペラめくると数ページある。
書かれているのは、アカデミーに関すること。
山辺は室内をぐるりと見渡し、欠席者がいないことを確認すると口を開く。
「うん。みなさん揃ってますね。2日目の授業を始める前に、みなさんの呼び方ですね。えー、アカデミーでは基本的に、登録されたVtuberとしての名前で呼びます。みなさんもお互いに、Vtuberの名前で呼び合ってください」
ここではVtuberとしての名前で呼ぶのがルールだ。
透は先ほどの出来事を思い出す。
知恵下原 解熱が、詩音にツッコミを入れていた。
『沢田 綿麦』だろ、と。
「では、2日目の授業はアカデミーの基本情報について、それから、Vtuberに関しての重要な情報についてです。えー、配布された資料を見てください。まずは、2ページ目」
透は資料をめくる。
書かれているのは、アカデミーで学び、ニッポニアからデビューするまでのロードマップ。
透は山辺の説明を聞き流し、資料を読み進める。
資料の内容を要約すると、アカデミーは第一期と、第二期で別れている。
第一期では、ボイトレやVスマホの使い方など、基本的なことを学ぶ。
第二期では、配信の実践を行う。
最後は、自宅で30分配信を行って、配信の内容が基準点に到達したらアカデミーを卒業し、ニッポニアからデビューだ。
ゲームのルールを理解するのは得意だった。
最短で2か月でデビューだ。
どうせなら最速デビューを目指したい。
ロードマップの説明が終わり、次のページ。
ここでは、Vtuberの設定資料が書かれていた。
ちょうど、七人分。
男女のイラストの下に、みんなの名前が載っている。
「これが、みなさんのアバターになります。これは、あくまでもアカデミーでの仮の姿です。ニッポニアからデビューするときは、有名なイラストレーターに依頼し、みなさんの姿を仕立てていただきます」
「このアバターは、何を基準にして描いたんですか?」
イケメンの横山が、質問をする。
透もアバターのデザインには疑問がある。
なぜか、アバターと本人の容姿が似ていた。
横山に至っては、『蟹江 笑顔』の姿が、ほとんど本人と変わらないイケメンだ。
これでは、Vtuberとして活動する意味がない。
「基本的に、みなさんのキャラクター性や、容姿に近いデザインになっています」
「なぜ?」
「負担を考慮しています」
「どんな姿になってなれるのがVtuberのいいところなのに、どうしてアバターを本人と似せる必要があるんですか?」
「このあと説明します。これ、説明する順番が悪いですね」
「……分かりました」
横山は渋々納得した。
「他に質問はありませんか? ……無いみたいですね。では、次はみなさんのキャラクターについて。えっとですね、えー、アカデミーにおいて、みなさんにキャラクターはありません。あっ、んー、意外と説明が難しいな。例えば『恩田 透水』さんならギャンブラー。『寺小町 てち子』さんならダンサー。など、みなさんには属性があると思いますが、アカデミーにおいては、それらを設定しません。しいていえば、『アカデミー生』というのが、アカデミーでのみなさんの属性です」
「公式設定が無いってことですか?」
ギャルの矢野が質問する。
「そうですそうです。革命家とか、ゾンビとか、そういうのは無しです」
「なるほどー、そしたら、横山くん……違った。蟹江くんが言っていたみたいに、Vtuberなら宇宙人にも、未来人にも、異世界人にも、超能力者にもなれるのが魅力なのに、その魅力をなくしちゃう理由がピンとこないです」
「これも、負担を考慮した結果です。負担については後で説明します。それに、これはアカデミーでの間だけです。デビューしたら、好きな自分になれますよ」
「はーい」
ギャルも大人しく引き下がる。
細かいことが気になって質問したはいいものの、最大の疑問は『負担』という言葉だ。
烏丸以外のここにいるみんなは、大なり小なり、Vtuberのファンである。
そしてファンをしていても、全く予想ができない。
Vtuberの裏側にしか分からない、何かがあるのだろう。
「では、次のページ」
資料のページをめくる。
そこに書かれていたのは、やはり見慣れない単語だった。
「Vtuber同化現象について」
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