第3話 これが本来の姉貴の姿
風呂上がりの姉貴から漂ってくる、シャンプーの香り。彼女はいつものショートパンツに、俺が誕生日にプレゼントしたピンクと白のストライプの長袖シャツを着て、自分の部屋に篭る。そろそろ「アレ」の時期が近い。「アレ」とは、姉貴の部屋の大掃除のことだ。
姉貴の部屋は、彼女自身にはどこに何があるか把握できているらしいが、俺からすれば、足の踏み場もないカオスな状態。毎回戦いを挑むような気分になる。今回も、マスクとビニール手袋、トング、そしてゴミ袋を持って、姉貴の部屋へ向かった。
「姉貴、掃除の時間だぞ」
部屋に入った瞬間、カップラーメンの食べ残し、昨日飲み残したペットボトル、食べ残しの菓子、ポテチのカス、エナジードリンクの空き缶が目に飛び込んできた。さらには、いつ買ったかわからない弁当の容器まである。
「うわっ!」
以前よりもひどくなっている気がする。以前は掃除の頻度がもう少し短かったからか、こんなにひどくはなかったはずだが……。
「うわっ!じゃないよぉー、お掃除おねがーい」
これが男キラーたる理由その4 ――「おねがーい」と言う時にウインクのコンボを繰り出すことだ。ウインクされた瞬間、断ることなんてできる男は存在しない。普通の男なら、軍隊のように「イエッサー!」と返事をして、言われたことを忠実に聞くだろう。
まあ、俺は弟だからこそ、この技に耐えられるが……掃除を手伝うことには変わりない。
姉貴はゴミの隙間に埋もれながら、ポッキーを食べつつ漫画を読んでいる。時折足を組み替えては、また落ち着かないのか、すぐにまた組み替える。まるで定位置が決まらないようだ。
ポッキーがなくなると、次のお菓子に手を伸ばす姉貴。俺は何も言わずにゴミを回収していく。すると、姉貴から「さんきゅ」という声がぼそっと聞こえた。
黙々とゴミを片付けていくと、パンパンに膨れ上がったカップラーメンを発見した。さすがにこれには驚いて、俺は二度見してしまう。
「姉貴?このカップラーメン、いつ買ったんだ?」
「非常食にしようと思ってたんだけど、どっかにいっちゃってさ」
彼女はまるで気にする様子もなく、漫画をペラペラとめくり続けている。一切、動く気配もない。
このだらしなさと無関心っぷりには慣れたつもりだけど、さすがにカップラーメンがここまで膨れているのはやり過ぎだろ……。俺は一瞬、ため息をつきつつ、ゴミ袋にそれをそっと入れた。
弁当の食べかすを踏んでしまい、思わず声をあげた。
「おわぁぁ」
「な、なに!?ゴキ?」
踏んだんだよ。食べ残しを。
「踏んだ。食べ残し」
「そう」
これが外と家の姉貴の差である。どうだ。
怖いくらい違うだろ。誰かに見せてやりたいよ。この姿。
「食べかすを落とすなよ、姉貴」
「あっ、ごめん」
さっきとは違いボソボソと言う漫画に集中しているからではない。これが本来の姿なのだ。
お分かりいただけだろうか?
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