(7)ワケもない

「どうして?」

 それは放課後のことだった。

「今日、どうして話てくれたのかを教えて欲しい、初対面だったでしょう」

 僕は聞き方もままならない言葉で少し乱暴に、投げかけていた。

「ワケなんて重要なことかしら、私は少し魔が差したのよ」

「本当に?」

 帰りの校舎を出たところで偶然神楽さんを発見したことから話は始まった。

「聞きたいんだ。だってだれにも話すことじゃないだろう?」

 言っていてまじりっ気のない、まるで純朴な言葉だなと感じていた。

「そう言うところだよ」

「……何が」

「黄瓦くんって含みのない言い方をしないじゃない。裏側を思わせる言葉を使わないじゃない」

 つまり? そう聞こうとして理解する。けれど、それは一体身の上話をするほどの理由になるのかが分からなかった。

「それはそんなにいいことなのか?」

 僕はその意義の解釈が理由になるのか、分からずにいた。川の流れに沸いた泡みたいだった。

「馬鹿だよキミ、ほんと馬鹿」

 その言い分に、少し腹が立っていたかもしれない。

「なぜそう思うのか教えてくれよ」

「見て」

 言いながら神楽さんは空を指差した。もう暮れ始めていた。指差したのは黄昏の赤い空だった。

「初めてだったからよ」「私はね、くんからあんな空をもらった気分になったのよ」

「だから、ワケもないだったわ」

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