(5)むっつり

「このむっつりが」

 この罵倒が変に刺さる。メンタルに。

「神楽尚」

「?」

「名前、私の」

 少女の脈絡のない言葉は理解するのに一拍子遅れてしまった、そこに僕は不甲斐なさを感じていた。

「あ、ありがとう」

 分かってる。今の僕はきっと、すこし惨めな様子をしているんだろう。

「知りたい?」

 また、脈絡がない。

「……なにを」

 余計な言葉がもれる。

「馬鹿だねキミ」

「そんなに言わ」

 そんなに言わなくても。そう言おうとした時だった。

「ちがう……」

 空気感が変わった、肌で分かる雰囲気の変化。僕は黙ってしまった。

「キミ、モテないでしょ、女の子の様子や変化に気が付かないだなんて失格」

 僕は今、わけも分からないことで叱責を受けている気分になっている。ただ内心でたじろぐことしかできない。

「分かる?」

 そう言われて、そのときが来て初めて神楽さんの目を正面から見た。充血していたんだ。

 僕は胸の中で鐘を打たれたように後ろ足が引けてしまった。何か言わないと、その間強迫観念のような焦りが生まれていた。

「別に、特別なことで泣いていたわけではないのよ」

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