第8話 ヤモリちゃんvsクモオくん達 【後】

 僕……ルビアは、思わず目を見張った。


(ンフッ!! フハハッ!! なぁんだ。ヤモリ……いや、家守、最っ高じゃん?

 さぁさぁクモオくん達? 私の成長の為にさぁ……ちょっと死んで?)


 僕に向かって怒鳴りながらも、考えていたよりも順調に蜘蛛の子達から逃げていると思ったら……エメルが急に、笑って蜘蛛に向き直ったからだ。


 その姿は、先ほど唐突に立ち止まった時とは真逆なくらいに自信にあふれていて……その自信が形になったように、翠色をしたエメルの魔力が溢れて、ナイフ状になる。


『……想像、以上だな』


 エメルの種族であるヤモリ型の魔物、チュトラリー・ゲッコーは、元々攻撃よりも防御ぼうぎょを得意とする珍しい種族だ。


 他の魔物が攻撃へと特化しているのに比べて、自分の身や大切な何かを守るという能力に特化した【シールド】や【結界】と言われる能力を持っている。そして、その地味で薄い体を活用して天井に張り付き、周囲の岩に擬態ぎたいして奇襲を仕掛ける事で、獲物を捕らえるという方法の狩りをするのだ。


 エメルは、擬態が難しい色で生まれた変異種であったり、元々は違う世界で生きていた人間……? であったらしいなどと、だいぶ色々と特殊とくしゅな事情を持つが故にその力の扱い方がわかっていなかったようだが……。

 予想以上に早く、感覚をつかんだようだ。


(よっっしゃぁぁあ!! お前ら、私の事舐めてただろ? どんなもんじゃい!? イエ〜!! お前ら、もう動けないっしょ? 格下に負けてどんな気分〜?)


 そして、コレはその特殊性からだろうか?

 普通に結界を張るのではなく、結界をナイフ状にして攻撃手段にしたようだ。

 結界とは、身を守る以外にこんな使い方も出来るものなのか……。

 こんな使い方、もはや結界じゃないだろう……?


『こんなの、僕も見た事ないや』


 これでも一応、かつてこの洞窟へと来るまでは、人の子達に「叡智えいちの紅竜」なんて呼ばれた時代もあったんだけどなぁ……。


 やっぱり、エメルは面白い。


 名付けとは祝福を与える行為で、魔力を名付けの相手と共有する事を意味する。

 その為、名付けは相手の強さによっては膨大な魔力を消費するのだ。それは相手が強ければ強いほど、より多くの魔力を遠慮なくしぼり取られる。

 そして、魔力の過剰かじょう消費は命に関わる危険なもの。……だから、最強のうちの一角とも言える竜の僕に名を付けるなんていうのは、とんでもない自殺行為といえる。


(ルビア〜、見て見て!! クモオくん達の死骸しがい、いらないけどゲットだぜぇ!!)


 知識では知らなくても、その事を生き物は本能で知っているから、僕に正式な名前はなかった。それなのに、エメルは何も知らずに僕に名を付けた。

 眠るだけで済んだのは、僕が慌てて名付けして魔力を分け与えたからなのに。


 彼女は、自分が死にかけたことを知らない。彼女はもう、僕の膨大な魔力に接続して、そこから魔力を引き出せるから倒れる心配はないから……知らなくて良い。


『おめでとう!!』


 ああ……本当に、君はすごいな。

 もしかしたら、今までに見た事はないけれど……竜以外でありながら、君は本当に進化で人の姿になれるかもしれないね。


(でも、疲れたぁ……休みたいぃぃいいい……)


『うん、よく頑張ったし、帰ってゆっくりしな?』


(マジ!? やった!!)


 明日は、もう少し格上の相手でも大丈夫かな?

 楽しみだなぁ……君が人の姿を見るのは。

 だから、ちゃんと君の事を立派に進化させるからね、エメル!!

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翠のヤモリ、優しくない世界を死ぬ気で生き抜く。 ❄️風宮 翠霞❄️ @7320

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