第3話 転生ヤモリ、出会う

(私をイジメてくる世界さん、おはよーございます。こちらは、何故か知らんが変な時間に起きてしまった元女子中学生ヤモリちゃんです……)


 いや、変な時間に起きた理由は明白だ。

 寝るために使った横穴に、先客がいたからにほかならない。


(まっさかまさか、奥の方にカエルがいるとは思わんかったわ……)


 もちろん、一目散に逃げた。

 え? 皆殺しの目標はどうした?

 やだなぁ、まだまだ今からに決まってんじゃん。

 今は休憩きゅうけい中なんですぅ!!


(私、気づいてしまった。ここ、上に行っても下に行っても危ないわ。実は上の方が危ない説も、蜘蛛くも様が上に留まってるからあったんだけど……カエル様は、蜘蛛様をむさぼってた。つまり、カエル様がいる下の方が危ないけど、私にとっては上の蜘蛛様も十分脅威きょういだから大して変わらん。両方怖い)


 だから、私は一刻も早く拠点を探して取り敢えず引きこもる!! 

 いつか強くなる方法が見つかる日まで!!


(さぁて、その為にもまずは……私が快適に過ごせる拠点を探す!!)


 実は、少し心当たりはある。

 最下層まで落ちた時に、一瞬ゾワっとしたような……心地良いナニカの気配を感じたのだ。


 問題は、あの「イ」から始まって「ゴ」で終わる昆虫から逃げるのに必死で、どの方向にどのくらい行けば、あの時の場所に行けるか覚えていないという事。


(はい〜、今「いや、一番重要なところがわかってないじゃん……」って思ったやつ全員挙手!! ブッ飛ばす!! 私、そこまでアホじゃないですぅ〜!! ちゃんと考えてますぅ〜だ!!)


 ふぅ……少し寂しさにどうにかなっていたようだ。

 話せない私の思っている事をわかってくれる存在はいないし、そもそも私の周りには誰も存在しない……だって、ここにいるのは捕食者と被食者という関係の生き物だけだから。


(少し、寂しいなぁ……本も、読みたい)


 体が変わったからか、体調を崩す事はないけど。

 やっぱり、本を読めないのは悲しい。


(ま、まぁ……それはさておき、今大事なのは拠点を探す方法だよね!!)


 それに関しては簡単だ。

 ヤモリの体は、人間の体だった時よりも野生に生きる分、感じ取る機能……本能のような部分がするどい。

 その数少ないこの体のメリットを活かして、あの時に感じた『心地良いナニカ』の気配を辿たどっていけば良いのだ。


(複雑ではあるけど、多分警察犬が容疑者の匂いを覚えて辿れるのと似たような感じなんだよね!! あ〜、前世では犬を可愛がってた側なんだけどなぁ……今では、犬すらも警戒して逃げないといけないんだからなぁ……)


 ヤモリに犬みたいな特性なんてあったっけ? などと少し疑問に思ったり、複雑な思いになったりとしながらも、私は実際に気配を辿る事で、順調に拠点候補こうほ地に近づいて行った。




 ◇




(ここだ!!)


 歩き、走り、時に「イ◯ゴ」という名の昆虫から身を隠しながら進む事、大体半日近く。やっと気配が漏れ出ている、洞窟の中に開いた大きな穴へと辿り着いた。


 苦労が報われた嬉しさ、そして、転生してから既に五日以上。やっと安心できるであろう場所を見つけることが出来た感動に、思わず長い尻尾が犬のようにパタパタと動いてしまう。


(まぁ、時間については光の入らない洞窟の奥の中だから、体感なんだけど。ここに時計なんてあるわけないし……体感以外で時間を知る方法がないしね!! ん〜……時計欲しいなぁ……)


「拠点にはどうにかして時計が欲しい」などと無理な事を思いながら、心地良さに釣られて穴の奥の方へと進んで行った。


 そう、進んでしまった。

 入ってしまった。


 私は、気が付かなかったのだ。


 何故、とても心地の良い気配が漏れ出ているのにも関わらず、さすがに何回も近くで見た事で悟れるようになった、「イ◯ゴ」やカエル様のような“敵”の気配を感じる事がなかったのか。


 答えは、一つだ。


 そいつらが怯えるような、強大な“敵”が存在するから。


『おやおや、まぁまぁ……!! 随分と綺麗で、珍しいお客人だね』


 例えば、ライトノベルを知らない私でも、その存在の絶大さを知るような……巨大で、理不尽なほどに強い、ドラゴンという名の怪物とか。

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