「手当」の意味

クライングフリーマン

手当

「手当(て)」とは、病気やけがの処置を施すこと。また、その処置。

 ブラウザで検索すると、何番目かに出てくる。

 さて、私には、持病が沢山あるが、今の「慢性鼻炎」が発症する前、小学校の頃から「慢性副鼻腔炎(蓄膿症)」で通院していた。

 高校2年の時、1回目の手術をした時のこと。

 手術後、大量の出血があり、止血剤を含んだ点滴もして、定期的に看護婦(当時)が吐き出した汚物の処理を交替でしていた。

 だが、普段『口呼吸』と『鼻呼吸』を自由自在に使っている筈なのに、上手く、呼吸が出来ない。鼻が塞がっているのだから、口呼吸しかない訳だが、上手くいかない。

 母が付いてくれていた時間は良かったのだが、どうしても苦しい。

 何回かナースコールをした後、来てくれた看護婦さんが、なだめてくれたが、どうにもならない。看護婦さんは、血圧を測る時間を延ばし、私の両手をじっと握ってくれていた。

 私には、とても長く、とても短く感じられた。

 突然、平穏は破られた。

 古参の看護婦がやって来て、「何してるの?」と咎めた。

「脈、測っただけです。もう終ります。」と言って、2人で去って行った。

 これが、私の呪文、「だい、じょう、ぶ!」の由来である。

 拙作にも、登場しているが、母が寝起きに目眩がして、「天井が回っている、天井が回っている」とパニックに陥った時、自分もどうしようか?と血圧が最高潮になりそうな時、ふと思いついて、深呼吸の代わりにやってみた。

「いい?グーチョキパー、グーチョキパー、グーチョキパー」と言いながら目を見ると、同じように手を開いたり握ったりしだした。継いで、「だい、じょう、ぶっ、だい、じょう、ぶっ、だい、じょう、ぶっ」と繰り返すと同じように唱和しだした。

 脳裏を横切ったのは、あの看護婦さんだ。いきなり手を握ったのではない。恋してはいないのだから。「深呼吸して!」とか「大ジョブよ、頑張って!」の後のことである。

 退院後、礼状は出したが、あの因業ババアに握りつぶされたかも知れない。

「落ち着いていない」相手に「落ち着いて」と言っても、なかなか落ち着かない。

 それにつけ込んだりするのが「特殊詐欺」なのだ。

 ケータイやスマホでやりとりしている現場でないと、発見しづらいのは、本人は「落ち着く努力」はしているからである。

 ともあれ、普段のコミュニケーションは大事である。

 今も、「眠り姫」状態が多い母だが、いつ「正気」に戻るかしない。

 制限時間はあるものの、私は「普段通り」話しかける。

 応答がなくても構わない。耳の奥では聞こえているかも知れない、と願いながら。

 最初の頃、歌を歌ってあげたが、今は「語り」だけにしている。

 今の教育はどうなっているかは知らないが、昔、看護学校では「道具を使うだけが手当じゃない」と教えていたという。

 詰まり、スキンシップ=手当なのである。

 機会が多かったにも拘わらず、看護師さんとはパートナーになれなかった。

 でも、長期短期に拘わらず、入院すると5分で、通院すると2回で「お友達」になってしまう。だから、「男性扱い」はして貰えない。「人畜無害」とは、このことである。

 ―完―

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