第48話 静かな怒り

「お、おい!? アレン! この学園内で魔法を使うのは禁止だろうが!」


 カイルは動揺しながら俺を指差して叫ぶ。


 教室内は静まり返り、全員の視線が俺に集中する。


 突然現れ、魔法で彼女を助けた俺に対する驚きと、怒りに震えるカイルの表情が交錯している。


「いやまあ、確かにそうだが、前回カイルも俺に魔法弾を使っていただろう? お互い様って事で見逃してくれないか?」


 そう、俺は覚えている。


 あの時、生徒会室から出る際、カイルが「練習」と称して俺に向かって魔法弾を飛ばしてきたのだ。


 俺は特に気にしていなかったが、あの威力は冗談で済ませられるレベルではなかった。


 仕方なく、俺はその場でヴォイド魔法を体に纏わせて無力化したが。


「え、あ、え?」


 カイルは顔を真っ青に染め、目を泳がせて汗を滲ませ始める。


 どうやら、俺が知っているとは思っていなかったらしい。


 自分の魔法の「いたずら」がバレたことに、冷や汗をかいているのが一目でわかる。


 その様子を見ていると、少しおかしくもあったが、今はそれを指摘する気分でもない。


 そんなやり取りの最中、治癒魔法を施した令嬢が静かに口を開いた。


「あ、あの! アレン……さん、助けて下さりありがとうございます」


「別に、たまたま通りかかっただけだ。それよりも……」


 俺は視線を教室の他の生徒たちに向ける。


 彼女の感謝に応じるよりも、こっちの方が気になって仕方がなかった。


 教室内でカイルが暴れ、彼女が傷つけられている間、周囲の生徒たちはただ見ているだけだった。


 誰一人として助けようとしなかった、いや、見て見ぬふりをしていた。


「なぜ貴様らは黙っていた? なぜ助けなかった?」


 俺がそう問いかけると、教室内に冷たい空気が流れる。


 彼らの表情が緊張に包まれ、口を開けずに固まっている。


 まるで俺の問いを無視するかのように目を逸らし、誰かが声を上げるのを待っているかのようだった。


 そんな彼らの姿に、俺は内心の苛立ちが募っていく。


 そしてようやく、一人の生徒が小声で反論を口にした。


「し、知らねえよ! 俺らには関係ねえだろうが!」


「そうよ! そ、そいつらの喧嘩なんて私は知らないわ!」


 他の生徒たちも彼に追随するように、口々に同じような言葉を紡ぎ出す。


 その一言一言が、俺の中で何かを刺激する。


 無関心な態度で助けを求める声を無視し、見て見ぬふりをする彼らの姿は、かつての俺自身の過去を思い出させる。


 前世で孤立し、周囲から見放された時の苦しみがフラッシュバックのように蘇る。


「……もういい、喋るな」


 俺は低く呟くと、片手に魔力を集めた。


 掌から浮かび上がったのは、燃え盛る火球──《第四級魔法/ファイアーボール》だ。


 視界に収まる生徒たちは、目を見開いて後退りし、怯えた顔でこちらを見つめている。


 俺の持つ火球が、彼らに対する警告として機能しているのだ。


「もし、この令嬢に何かしたら、俺の魔法が貴様らを許さん」


 俺がそう言い放つと、生徒たちは怯えきった表情で頷き、身を縮めている。


 彼らの震える様子が痛快というわけではないが、少なくともこれで無関心な態度は改めるだろう。


「カイルよ、お前もだぞ?」


 俺はカイルに釘を刺す。


 彼もまた、俺の言葉を理解し、嫌そうな表情を浮かべながらも首を縦に振っている。


 勇者だとか、英雄だとか、そんな称号を持ちながらも、この行動には矛盾が多い。


 結局のところ、誰かに力を誇示することで満足しているに過ぎない。


 さて、一通りの制裁は済んだか。


 俺が教室を出ようとしたその時、令嬢が再び声をかけてきた。


「あ、あの! 私は伯爵家の令嬢、メルー・アマラ・タフワです! ぜ、ぜひお見知りおきを」


 その名を聞いて、俺の脳裏に一つの思い出が蘇る。


 タフワ……ああ、彼女か。


 あの、ヤギンの角の依頼を出したベルド伯爵の家名だ。


 俺が冒険者として活動していた時、情報をくれた人物がこの家と繋がりがあるとは思わなかった。


「タフワ……ああ、お前があの」


 俺が言葉に詰まると、メルーは不安そうに見つめてくる。


 だが、それ以上は彼女に伝えず、俺は「いや、何でもない」と軽く受け流す。


「ではメルーよ、またな」


「は、はい!」


 彼女に手を振り、教室を後にした。


 俺は今「貴族のアレン」として学園生活を送っているが、「冒険者のアレン」としても生きている。


 こうして立場を変えながら、さまざまな役割を演じていると、少しだけ複雑な気分になる。


 そうして教室から離れ、廊下をゆっくりと歩き出す。


 だが、そのまま気楽に歩いているわけにはいかなかった。


 とんでもないことを思い出したのだ。


「あ、一限に遅れてしまう! 《第三級魔法/テレポーテーション・マジック》」


 俺は慌てて魔力を解放し、《第三級魔法/テレポーテーション・マジック》を唱えた。


 視界が歪み、次の瞬間には授業の教室の入り口に立っていた。


 授業に遅刻しないようにするため、転移魔法を使用するとは……規則違反の重ねがけだが、背に腹は代えられない。 


―――



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