第27話 魔法書が消えている?
ここは学園の魔法庫。
魔法書が無くなったと言われている場所は、どうやらここらしい。
周囲を見渡すと、棚には色とりどりの魔法書が整然と並べられ、豪華な装飾品がところ狭しと飾られている。
俺の邸宅、グレイス家にある魔法庫よりも、はるかに多くの種類が揃っていた。
「かなり広いな、この魔法庫」
「まあ、貴族が使う魔法庫ですからね、広くて当然です」
そんな会話を交わしながら、俺たちは奥へと進んでいく。
「へえ、良い魔法書が揃ってるじゃないか」
棚に並べられた魔法書を眺めると、かなり上位のものがずらりと並んでいる。
こんなに良い魔法書は、王都の本屋でも滅多にお目にかかれない。
魔法書は貴重な存在であり、特に上位のものは手に入れるのが難しいからだ。
「それで、魔法書が無くなったと言われている場所はどこだ?」
「そこよ」
リザラは近くにあった棚を指差した。
そこにはサポート系の魔法書が置かれており、その内容はかなりの上位のもので、普通の市場では決して手に入らないものだった。
「この魔法書が無くなったのか……信じられんな」
俺はこの魔法庫のセキュリティを魔力で感じ取ったが、一般の人間が入り込むには到底無理な場所だ。
仮にこの学園の貴族が盗んだとしても、すぐ誰かに見つかってバレてしまうだろう。
そもそも、学生の貴族がそんな愚行を行うとは考えにくい。
「ちなみに、この棚に並べられている魔法書、深夜に無くなる時があるらしいわよ。しかも、数分後には戻ってくるんだって」
リザラの言葉を聞き、俺は不思議に思った。
深夜に無くなるのは分かるが、なぜ数分で魔法書が戻ってくるのか。
普通、魔法書を解読するには、早い人でも数週間、遅くとも数ヶ月はかかるだろう。
これほどの時間を要するのに、なぜ一瞬で戻ってくるのか、俺は疑問でならなかった。
「魔法書が一瞬で戻ってくる……まさか、複製か?」
「その可能性も考えられるわね」
一瞬で戻ってくるということは、何らかの魔法を使って魔法書を複製、もしくは模写している可能性が高い。
しかし、魔法書を複製することは、各国で禁じられている暗黙のルールだ。
それを行っているとなると……。
「黒だな」
「え?」
俺はこの事件が組織によるものであると判断した。
おそらく魔法書が一瞬で無くなるのは転送魔法を使い、どこかへ移動させているからだ。
そして、その魔法書を複製し、裏で売買している可能性もある。
もしくは、複製した魔法書を組織内で活用し、組織の強化に回しているのかもしれない。
考えれば考えるほど、その闇は深くなっていく。
「おそらくこの事件は簡単に解決できるような問題じゃない。早めに捜査をしなければ、やがて大炎となるぞ」
「ちょ、ちょっと待ってよ、そんなに大事なの?」
「ああ、そういえばリザラ。この魔法書が無くなったのはいつ頃だ?」
「さ、最近よ、あんたが生徒会に入る少し前ね」
「まだ起きたばかりなのだな」
リザラの話を聞いて、俺は安堵した。
この事件がかなり前から始まっていたら、もう手遅れだったからな。
まだ始まったばかりということは、そんなに魔法書は複製されていないはずだ。
「では、早急に取り掛かるぞ。もしこの魔法書が複製されて組織に回っていたら、大問題になる」
「そ、そうね、じゃあ急いで教員にも伝え……」
「待て」
リザラが慌てて部屋から出ようとするのを、俺は静止させる。
「何で待つのよ、早く伝えたほうが!」
「お前はこの王国の事情を知らなすぎる」
俺はリザラにそう告げる。
少し前、俺はとあるS級冒険者たちとレッドストーンの取引をした。
その際、内部情報を少し教えてもらったが、どうやら王族内で支持争いが起きているらしい。
おそらく、現国王が死んだ際の次期王を決めるために支持を確保しようとしているのだ。
そのために、王族はありとあらゆる手を使って行動している。
だからもしこの事件に王族が関わっている場合、俺たちの命に関わる問題になってしまう。
「もし仮に王族がこの事件に関与していた場合、俺たちは殺されるだろう。間違いなく、よく思わない連中がいるはずだ」
全ての王族がそうとは限らない。
実際、あの冒険者たちはレッドストーンを回収し、阻止に向けて取り組んでいた。
だからおそらく、王族同士で何らかの揉め合いがあるのだろう。
「じゃあこの問題は誰が?」
「この俺、アランが解決する。リザラ、お前はこの事件に関わらない方がいい」
俺はリザラにそう告げる。
もし俺が狙われたとしても、いざという時に魔法を全開にして戦うが、リザラ程度の人間なら、間違いなく殺されてしまう。
相手は王族、そして組織の場合、殺し屋だけでなくさまざまな手段で攻めてくるだろう。
「冗談言わないで、私は生徒会のメンバーよ! アランの憶測で私を外す理由にはならない」
「命に関わる事だ、やめておいた方が身のため……」
「だったら、私と一戦交えましょう。それで私があなたに勝ったら、一緒に同行するわ」
リザラは俺を指さしてそう言う。
立場上、俺がまだ新米であることも理解できるし、こんな大仕事を任せたくないという気持ちも分からなくはない。
「いいだろう、もしリザラが俺に勝ったら、一緒に同行させてやる」
「あなた、ほんと上から目線ね。エイダはあなたのことを買っているらしいけど、私に勝てるかしら?」
「ああ、勝負をしてみれば分かる」
「もう! 早く訓練場に移動するわよ!」
リザラは少し怒った様子で、俺の腕を引っ張り、歩き出すのだった。
―――
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