第25話 なぜ、魔法が無力化されている? カイル視点

「ここで待ち伏せだ……」


 薄暗い廊下で僕はじっと息を潜め、生徒会室からアレンが出てくるのを待っている。


 本来、この場所に立つべきはこの僕、カイル・リューコスだというのに――なぜあの悪名高い貴族、アレンが生徒会室に招かれているのか、理解できない。


「絶対に殺してやる、今の奴は僕がここにいるなんて思ってもいないだろう」


 思い返せば、あの決闘で僕は気絶し、無様に場外負けとなってしまった。


 しかし、かろうじて耳に入ったのは、アレンが生徒会に招かれるという信じられない話だった。


 どうしてエイダはあんな奴を?


 こっちは最強のスキル《剣聖》を持っているというのに。


「早く出てこいよアレン……今すぐ僕の魔法弾で消し去ってやる」


 右手に溜めた魔力がじわりと熱を帯び、手元に集まっていく。


 これを奴の頭に叩き込めば、間違いなく息の根を止められるはずだ。


「怒りが収まらん、楽には殺さないからな」


 まずは足だ。


 次に手、そしてじわじわと痛みを与え――最後に頭を撃ち抜いてやる。


 想像するだけで、胸の内に復讐の炎が燃え上がってくる。


 くく、奴の苦しむ姿が楽しみだ。


 僕は息を潜め、静かにアレンが出てくるのを待っていると、ついにドアが開き、奴が姿を現した。


(まだだ……エイダにバレない距離まで待つんだ)


 アレンが廊下を少し離れたその瞬間、魔法弾を放つ準備が整う。


「ここだ! 死ねアレン!!」


 僕は狙いを定め、アレンの足元に向けて魔法弾を放つ。


 まずは足を封じ、奴の苦しむ姿を見届けてやるつもりだったが――


「な、何!?」


 アレンの足元に向かっていた魔法弾は、突然、掻き消されるようにして消えてしまった。


 奴の周囲に触れた瞬間、まるで跡形もなく消え去るのだ。


「な、何が起きているんだ!?」


 焦った僕は、次にアレン全体に向けて魔法弾を放つ。


 まさかエイムが悪かったなんてありえないが、念のため連続で放ってみる。


 しかし――


「な、なんで消えるんだ!?」


 いくつもの魔法弾がアレンの近くに届く度に、消える。


 まるで最初から存在しなかったかのように。


 しかも信じられないことに、アレンは僕の存在など知らぬふりで、ただ平然と歩いている。


 こ、こんなこと……!


「魔法が消えるなんてありえない、な、何をしたんだ」


 たとえ上級の魔法を扱える者でも、魔力そのものを無効化する魔法なんて存在しないはずだ。


 それに僕は最大限まで魔力を溜めて放っているというのに、何故……何故僕の魔法が消えてしまうんだ!


 悔しいが、ここは一旦撤退するしかない。


 魔力を無効化されるなんて、聞いていないぞ。


「ぜ、絶対に殺してやるからな、アレン……!」


―――



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