第22話 取引開始

「ここら辺でいいか?」


 俺たちは噴水のある広場に移動した。


 ここは美しい街並みと建物が広がる場所で、王都でも特に賑やかなエリアだ。


 そんな中で、俺たちは冒険者ランキング3位のパーティーと、例のレッドストーンを巡る交渉を開始する。


「それで? なんでリン達はこのレッドストーンが欲しいんだ?」


 俺は率直に問いかける。


「あなた達と同じで、このレッドストーンが組織に行き渡ると厄介なことになるから、私たちが回収しているってわけ」


「なるほど……つまり、俺たちと目的は同じってことだな? じゃあ、質問を変えよう。お前たちの主ってのは誰だ?」


「詳細な情報は言えないけど、王族よ」


「王族か……」


 アストリア王国の王族。


 こいつらはやっかいな存在だ。


 何せ内部では、かなり派閥が入り乱れている。


 現国王のルーシアが統治しているうちはまだ平穏だが、彼が亡くなれば、その後継者争いが火種になるのは目に見えている。


「お前たちの主は『黒神』にレッドストーンが渡らないように動いてるってことか。でも、それって一体何のメリットがあるんだ?」


「そうね……『黒神』を放置すると、支持率に影響が出るからよ」


「支持率に影響……?」


「ええ、そうよ」


 俺はその意味を考え込む。


 『黒神』がどう支持率に関わるのか、まだ俺にははっきりと見えてこない。


 だが、もし『黒神』の背後に王族が関与しているとしたら……リン達が奴らの行動を阻止しようとしている理由も見えてくる。


 だが、確かなことはまだわからない。


 黒神の目的がレッドストーンを集めて何かを召喚しようとしていることは知っているが、それが貴族たちにどう関わってくるのかまでは読めない。


「ひとまず、お前たちの目的は理解できた。最後に質問だが、そのレッドストーンはどこで保管するつもりだ?」


「主が魔力を封じ込める特殊な箱に入れて保管しているわ」


 なるほど、俺と同じ方法で保管するってわけか。


(この人たち、信用しても良さそうだな……保管方法も同じだし)


「よし、リンたちの話を聞いて、俺は信頼できると判断した。ユキたちはどうだ?」


「もちろん、私もアレンと同じよ」


「ああ! 俺も同じだ」


「私も~」


 俺たち全員が同意する。


「なら、この宝石は渡そう」


「ほ、本当か! じゃあ、ただで貰うのもなんだし、これを受け取ってくれ」


 リンはユキに小さな袋を差し出す。


 ユキが恐る恐る袋を開けると――


「き、金貨が2枚!? 良いんですか?」


「ああ、それくらいレッドストーンは希少価値があるんだ。受け取ってくれ」


 どうやらリンは、レッドストーンと引き換えに金貨2枚を渡してくれたらしい。


 この金貨があれば、装備や武器の強化、さらには魔法書だって買える。


「これは素晴らしいな。じゃあ、こちらの宝石も渡しておく。急いで主のところに持って行けよ」


「ああ、もちろんだ」


 俺はレッドストーンをリンに手渡す。


 するとその瞬間、横にいた筋肉質な女、モーナが俺にニヤリと話しかけてきた。


「お前、よく見たらなかなかいい顔してるじゃねえか。どうだ、今晩私と寝てみねえか?」


「じょ、冗談はよせ! 俺の体じゃお前の巨体には耐えられん!」


 俺は焦って言葉を絞り出すと、モーナは豪快に笑い出す。


「なんだよ、お前、もしかして緊張してんのか?」


「お、おいリン! 交渉は終わったんだし、さっさと行ってくれ!」


「もー分かってるって、モーナ、からかわないの!」


 そんなやり取りの後、リン達はこの場から離れようと歩き出す。


 すると、仮面の付けたミリアが去り際に口を開く。


「アレン、お前とはまたどこかで会いそうだ。その時はよろしくな」


「お、おう」


 そうしてリンたちは一瞬にして姿を消す。


 どうやらミリアの転移魔法を使って移動したようだ。


 転移魔法は第3級以上の魔法だし、やっぱりミリアは只者じゃない。


 そんなことを考えていると、ユキが急に口を開いた。


「まあ、色々あったけど、金貨が2枚も貰えたし、買い物でもしてこようよ!」


「そうだな。俺は新しい剣でも買うか!」


「私は雷属性の魔法書を買う~」


 ユキが空気を明るくしてくれるおかげで、重かった雰囲気が一気に晴れる。


 こういうリーダーがいてくれると助かる。


 俺もさっきまで色々考え込んでしまっていたが、やっと気分を切り替えられそうだ。


「アレンも何か買いに行こう! さっきのことは忘れてさ!」


「ああ、そうさせてもらうよ」


 こうして、俺の冒険者としての1日目は、無事に幕を下ろすのだった。


―――



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