第16話 戦線は西へ

王国暦131年2月7日 ユースティア王国 首都キヴォトス 王国軍統帥本部


 この日、ユースティア王国の首都キヴォトスにある王国軍統帥本部では、幕僚がサカタ統帥本部長に対して、星十字騎兵団が鹵獲した弾道ミサイルに関する報告を受けていた。


「統帥本部長。星十字騎兵団が鹵獲した弾道ミサイル『グランテピエ2』に関する調査報告書がまとまりました。どうぞこちらを」


「…民生品が相当数用いられている様だが?」


「はい。しかも、ゴーティア大陸東部諸国で、カレタ島での人工衛星打ち上げプロジェクトに参与している国々の企業で製造されたものも多数含まれております。恐らくは技術面での問題を他国から密輸したもので解決しているのでしょう」


 参謀長の説明に、サカタは眉をひそめる。5年前に軍事パレードで公開された『グランテピエ1』弾道ミサイルの射程距離は凡そ500キロメートル。ゴーティア海外州に接する全ての国を攻撃可能だと喧伝していた事や、侵略戦争が始まった頃の弾道ミサイル攻撃でも実際に国境地帯から半径500キロメートル圏内に着弾しているため、当初連合軍はその射程距離を前提に置いて防空戦略を練っていた。


 しかし、その改良型である『グランテピエ2』の射程距離はその3倍の1500キロ。推進部である固体燃料式ロケットの延長や、2段式ロケット方式の採用による射程延長を叶えているとしても、核戦力やロケット技術の改良よりも通常戦力の拡充に軍事費を割いていたガロア共和国が、5年以内という短期間でより性能の優れた弾道ミサイルを開発する事は非常に困難だと見られていた。


「ともあれ、戦略攻撃を担っていた部隊は壊滅し、奪取した核弾頭もこちら側の交渉カードとして活かせます。我が国は国防方針の関係上核兵器は保有していませんが、『開発できない』とは別の問題ですから」


 空軍作戦本部長の説明に、多くの将官が頷く。『召喚者』の啓蒙や、過去の核開発に関わる事故で自然環境と一部種族に悪影響が出た事から、この国では原子力発電所以外での核開発は殆ど行われていない。そもそもユースティアは『亜人』と蔑まれて追いやられてきた者達が魔人族を中心に建国した国であり、効率よく民族浄化を行う手段となりうる大量破壊兵器の開発と保有に対して否定的な風潮があったからだ。


「だが、問題はここからだ。ゴーティア海外州の国境地帯へと足を踏み入れる際、相手が核兵器を中心とした様々な手段で侵攻を阻止してくる可能性も高い。故に我らはガロアの行動にもより警戒を張らねばならなくなった」


 国境を超えてきた敵軍を事前に仕込んだ爆弾で巻き込む様に吹き飛ばす。まさしく単純ながら効果的な手段と言えた。その様な暴挙に出る前に阻止するのが肝要だろう。


 斯くして、ユースティア王国はこの戦争を終わらせるべく、新たな戦略を練りはっじめるのだった。


・・・


モニティア王国 港湾都市ボドバ


 戦線の変化は、モニティア王国の港湾都市ボドバにも現れ始めていた。


「大尉どの…間もなく、ここも戦場となるんですね」


「凄い量の爆弾っすね。陸軍機甲師団の攻勢対策用っすか?」


 市街地の一角で、警備を担う兵士達は呟く。郊外の飛行場に向けて進むトラックによって航空爆弾が次々と運び込まれ、この場に集う兵士達は『黄金鷲』に如何なる任務が課せられるのか容易に想像できた。


 上官たるブレンはその車列を見つつ、小さく呟く。


「…我々第14軍団も大変騒がしくなっていくぞ。何せ戦線が西へ押され始めたからな。第5軍団が甚大な被害を受けた以上は、我らの方にも同様の損害が出る前提で戦った方がいいからな」

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