第15話 スフィリア会戦

王国暦131年1月9日 ゴーティア大陸東部戦線 ボーグ公国スフィリア盆地


 敵弾道ミサイル基地の破壊の報は、上空3万メートルを漂う人工衛星を介して戦線に伝えられた。そして一夜明け、ボーグ公国中部へ展開していたユースティア王国陸軍は行動を開始していた。


「敵はもはや遥か遠くより理不尽なる一撃を放つ事は叶わず。全軍進撃せよ」


 第5騎兵師団長の命令を受け、数百両もの主力戦車の群れが広大な平原を駆ける。その上空には数十機もの爆装した〈ファルコン〉戦闘機とA-4C〈レイダー〉攻撃機、それを守る〈イーグル〉戦闘機、そして対戦車ミサイルを満載した〈ワイバーン〉の大編隊の姿があった。


「来たぞ、迎撃しろ!」


「怯むな、我らは精強無比の101師団!同等の規模相手なら負けはせん!」


 対するガロア陸軍第101騎兵師団も、C-97主力戦車を立てて待ち構え、後方の陣地では自走榴弾砲が盛んに100ミリ榴弾を撃ち上げる。しかし偽装の施されていない自走砲など、ユースティア空軍機の敵ではなかった。


「攻撃開始。黙らせろ」


 編隊長の命令一過、〈レイダー〉は対戦車ミサイルを抱えて砲兵陣地へ突撃。周辺に展開する対空陣地や、自走砲が有する機銃で応戦するものの、3000メートル先から放たれる赤外線追尾式対戦車ミサイルに対応するには非力過ぎた。


 ミサイルが次々と自走砲を食らい、火柱と黒煙がそれらの墓標となって立ち上る。それは西へ爆走する戦車部隊からも見えていた。敵の対空戦車は戦車部隊の周辺に集中して展開しており、地対空ミサイルも〈レイダー〉を落とすべくレーダーを発したところを〈ファルコン〉が捕捉。目標地点に空対空ミサイルを放り込んで沈黙させた。


「くそ、空軍の連中はどうしているんだ!俺達を見殺しにする気か!?」


「連中か?大半がカレタ島沖で例の『騎兵隊』に墜とされたんだよ!しかもノストロージアを奪還しようと向かった部隊の殆どが返り討ちにされたんだと!」


 歩兵戦闘車の車内にて、歩兵達は騒ぐ。盆地の中央に陣地を張る第101騎兵師団は、複数の街道に戦力を分散して配置しており、他の地域にいる第5軍団隷下の師団と連携して迎え撃つ態勢を取っていた。軍団長も同様に、単純計算で3倍もの兵力がある以上は余裕で対応できると踏んでいた。


 それ故に、北部の山々にユースティア陸軍の空挺部隊が現れたとの報が入った時、師団司令部は揺れた。そして彼らには混乱する余裕は殆どなかった。


「撃て!」


 号令と共に、山中に運び込まれた十数門の105ミリ榴弾砲が吼える。その砲撃は真正面から敵軍と対峙している第101騎兵師団を横殴りする形で着弾する。


「山の方から砲撃が来たぞ!」


「くそ、厄介な…」


 狼狽えている暇はなかった。彼ら第101騎兵師団にとって悲惨だったのは、敵戦車の能力が想像以上のものだったという事だった。


「撃て!」


 命令と同時に、先頭を突き走る12両が吼える。120ミリ滑腔砲より放たれた砲撃が真正面より車体装甲を穿ち、一度に十数両が砲塔を吹き飛ばされる。命中率も高く、最新のレーザー照準器とデジタル式射撃管制コンピュータを用いた緻密な狙撃が次々とC-97主力戦車を一方的に撃破していく。


 ガロア側も砲撃で迎え撃つが、C-97の90ミリライフル砲より放たれる徹甲弾では相手を貫く事は出来なかった。


 斯くして、『スフィリア会戦』と呼ばれる事になる戦闘にて、ユースティア陸軍第5騎兵師団は第101騎兵師団を殲滅。これを機に戦線各地にて大規模な反攻作戦が連続する事となる。

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