第14話 弾道ミサイルを潰せ
正暦1031年1月8日 ゴーティア大陸北西部 シャリア地方
かつて街があった事を示す廃墟の中を、数十台ものトレーラーが走る。その二台は巨大な円筒形の容器であり、何も知らぬ者達からは異様な存在に思えた。
「間もなく、我らは攻撃を再開する。目標は戦線に展開する敵連合軍陣地だ」
移動式指揮本部の車内にて、第1戦略砲兵師団長のベレヌス少将は語る。54台の起倒式発射台と各種支援車両で構成される第1戦略砲兵師団は、ゴーティア大陸東部に対する戦略的な打撃を与えるべく、年明けから文字通り三日三晩かけて162発の『グランテピエ2』弾道ミサイルを発射。8割以上は迎撃されてしまったものの、残る2割により連合軍の主要な拠点や町に甚大な被害を与える事に成功していた。
さらに今回、新たに補給された弾道ミサイルには新たな弾頭が装着されている。故にベレヌスはいつにも増して気合を入れていた。
「総司令部は『
ベレヌスは目標を語る。この指揮車に詰める兵士達は弾道ミサイルの運用において厳しい訓練を積み、高度な技量を積み重ねたプロフェッショナルであり、出身も貴族や騎士から厳選されている。理由は当然、ミサイルの弾頭が平民や農奴に扱える様なシロモノではないからだ。
「現在、戦線は平民や農奴の歩兵どもの怠慢によって崩壊の憂き目を見ている。この悪しき流れを断ち切り、我らの求める勝利を得るためにも、我らはこの一撃に全てを―」
高説を垂れていたその時。突如として警報が鳴り響く。
「何事だ!」
ベレヌスの問いに対し、答える者はいなかった。何故ならこの直後に訪れた爆発がその解答であり、彼らはその瞬間理解する権利を永遠に失ったからだ。
・・・
「敵指揮車への命中を確認。これより敵ミサイル発射トレーラーへの攻撃を行う」
指揮車の破壊を確認したエリザベートは無線で言いつつ、次の目標である移動式発射台へ照準。爆弾を放り投げる様に投下する。爆弾が次々と発射台や管制用の車両へと命中する中、周囲に展開していた地対空ミサイル車両や対空戦車は急いで対応に向かう。
「くそ、1機たりとも逃がすな!撃ち続けろ!」
「空軍の応援はまだか!?」
地上が騒然とする中、広域に展開する8機の〈イーグル〉と16機の〈レイダー〉攻撃機は次々と爆弾を投下し、発射台を破壊していく。爆発は弾道ミサイルのロケット燃料に引火し、次々と火柱が聳え立っていく。そうして黒煙が複数個所から立ち上る中、今度は十数機のヘリコプターが現れる。
「ワイバーン1より各機、攻撃開始」
命令一過、〈ワイバーン〉攻撃ヘリコプターは一斉に対戦車ミサイルを発射。〈イーグル〉に気を取られていた対空戦車は不意打ちを食らい、次々と撃破されていく。そして〈アルゲンタビス〉汎用ヘリコプターは敵の対空戦闘車両が軒並み破壊されたのを確認してからホバリングを開始。ホイストを用いて数十人の兵士達が降りてくる。
「おしおし、さっさとミサイルの弾頭とか色々かっぱらうよ~」
「ん、弾頭を優先で確保しよう」
情報部からの情報では、『グランテピエ2』弾道ミサイルのミサイル重量は7トンにも及ぶという。故に〈アルゲンタビス〉の輸送能力を考慮し、複数のパーツに分解して積載するのが手っ取り早い。
「ところで、分解する方法は分かっているのよね?最高の軍事機密をどうやって把握したのかしら?」
「いや、割と簡単だったみたいだよ?サキュバス出身の諜報員が弾道ミサイルの製造に携わる陸軍造兵廠関係者にハニートラップを仕掛けて、その上で魔法で色々引き出したんだとか。もちろんガロア人の協力があって初めて忍び込めた場所なんだけどね」
雑談を交わしつつ、星十字騎兵団の歩兵部隊は工兵とともにトレーラーに積まれているカプセルを降ろし、ハッチを開放。中身のミサイルを引きずり出す。解体までには10分とかからず、弾頭部は数人掛かりで〈アルゲンタビス〉の機内に運び込んでいく。
無論、弾頭部以外の部品も出来る限り分解し、ヘリで運んでいく。ミサイルの性能が分かれば、迎撃するための手段を増やす事が出来るからだ。
そうして1発目のミサイルを解体し、ヘリで輸送し始める中、生き残っていた発射機には爆弾をセット。敵兵も丁寧に射殺していく。捕まえて捕虜にしたところで、彼らは即座に自殺に走るからだ。地上でぞっとしない光景が繰り広げられている最中、シロコは味方戦闘機の舞う空を見上げた。
・・・
『各機、お客さんが来たぞ!南西方向からだ、機数8!レーダー反応からして機種は〈ティフォン〉と推測、警戒されたし!』
〈スカイミラー〉早期警戒管制機より通信が入り、マリヤは自身の率いる7機の〈イーグル〉に通信を繋げる。
「レイヴン1、了解した。レイヴン隊各機、エレメントを編成。一騎打ちはご法度よ」
『レイヴン2、了解しました。何が何でもついていきます』
今年戦闘機パイロットになったばかりだというレイヴン2の応答を聞きつつ、8機の〈イーグル〉は敵戦闘機に向かい始める。キャバリエ隊の〈イーグル〉が対地攻撃兵装をメインにしているのに対し、レイヴン隊は全て空対空兵装で身を固めている。理由はもちろん、今現れた敵に対峙するためであった。
照準次第、編隊は空対空ミサイルを一斉射。同時にフレアを撒きつつ編隊ごとに旋回し、回避機動を取る。無論相手も同様の機動を取るが、彼らにとっての不幸はユースティア側のミサイルがただの空対空ミサイルではなく、チャフによる欺瞞を想定した改良型のアクティブホーミング式ミサイルだった事である。
避けきれなかった1発が至近距離で爆発し、主翼と尾翼に損傷を被る。そして動きが鈍くなった機体へ、マリヤはねじ込む様に空対空ミサイルを放った。
致命的な一撃を食らい、〈ティフォン〉は墜ちていく。その尾翼に黄金の鷲のエンブレムがあったのを見逃さなかった。
斯くして、ガロア陸軍第1戦略砲兵師団は星十字騎兵団の強襲を受けて壊滅。戦略的打撃を与える機会を一時的に喪失する事となる。そしてそれは、反撃ののろしでもあった。
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