第13話 新たな戦場へ
正暦1031年1月5日 ユースティア王国西部アビドス州 アビドス空軍基地
年が明けたある日。エリザベートとマリヤは古巣たるアビドス空軍基地にあった。
「久しぶりだな、エストシャリア少佐。それにユースト中尉」
司令官執務室にて、二人はグランドと再会する。
「中将こそ、お元気な様で何よりです。第4航空団の再建が叶い、良かったですね」
「ああ…だが戦後、私は職を辞する事となっている。不可抗力とはいえ部隊を壊滅させてしまったからな…君達には大分迷惑をかけた」
「いえ…我々も『黄金鷲』があの場で出てくるとは予想もしておりませんでしたし…」
マリヤは謙遜する様に答える。グランドはその様子を見つつ、話を切り替える。
「さて、総司令部より新たな通達だ。本日付けを以てエリザベード・ド・エストシャリア少佐及びマリヤ・イズ・ユースト中尉2名は昇進。第31独立飛行隊の規模も増強される。戦時昇進ではなく正式な手続きを踏んだ上での昇進だ」
「本国では現在、〈イーグル〉の新規ロットがロールアウトし、さらにモンテニア方面の戦線を崩した事によって陸路及び空路でのノストロージアへの輸送も容易となった。よって星十字騎兵団は現地レジスタンス及びモンテニア王国軍の残存部隊に守備を任せ、新たな作戦を担える様になった」
グランドはそう言いつつ、テーブルの上に数枚の写真を置く。
「見てくれ、去年末に打ち上げられた偵察衛星『ウジャト3』の撮影した写真だ。ガロア陸軍は現在、旧シャリア王国領内に第1戦略砲兵師団を展開。現地より大陸各所に向けて弾道ミサイルによる攻撃を実施している。幸いにして空軍高射群と海軍が本土に向けて発射されたミサイルの迎撃に成功しているが、被害はすでに大陸東部の各所に出ている」
「この調子だと、相手が大量破壊兵器や生物化学兵器を使ってくるのも時間の問題ですね…発射は続いていますか?」
「いや、ここ数日で撃ち切ったらしく、現在は補給中だ。現在レジスタンスなどが妨害を行っているが、それでも1週間以内に発射が再開されるだろう。今度の任務はこれの阻止がメインになるかもしれん」
ガロア共和国軍が核実験に成功し、大量破壊兵器の配備開始を宣言したのが15年前。それ以降原子力発電所の整備と並行して戦術核兵器の増産とそれらを運用するための兵器の開発が進み、今では航空爆弾型が200発程度、弾道ミサイルの弾頭型が100発程度あるという。その大半はガロアより西の列強国に対する牽制用だが、一部がゴーティア大陸における戦略攻撃に用いられる可能性は十分にあった。
特に陸軍戦略砲兵軍団が有する『グランテピエ2』弾道ミサイルは射程距離が1500キロメートルに達するものであり、ゴーティア大陸西部からなら大陸東部全域を収める事が可能である。それらに核弾頭が搭載された暁には、悲劇的な破壊がもたらされるだろう。
「これ以上ガロアが凶行に走る前に、勝負をつけねばならぬ。二人とも、頼んだぞ」
『はい…!』
二人は力強く答え、上官に敬礼を送った。
・・・
モニティア王国東部 港湾都市ボドバ
「おはようございます、大尉」
ボドバ郊外にある自動車用道路。いつもなら何百台もの自動車が行き交う筈であるその地には、数百人もの将兵が集まっていた。
「おう、来たか。早速だが手伝ってくれ」
道路を見渡していたバレンは部下達にそう言いつつ、目の前の瓦礫を拾い始める。その先では工兵や空軍整備士達が消火活動に勤しんでいた。
ボドバ占領後、湖のほとりを通る自動車道は占拠され、ガロア空軍の野戦飛行場として再利用されていた。そこには空軍の第55戦闘攻撃飛行連隊、通称『黄金鷲飛行隊』が駐留する様になり、『黄金鷲』は大陸南部の制空権維持に駆り出されていた。
しかし去年の12月以降、『黄金鷲』の状況は芳しくなかった。理由はいくつかある。先ず〈ミラージェ〉や〈エクレル〉の損耗が予想以上に激しく、他の部隊の補充として新規生産された〈ティフォン〉が優先的に配備されている事。さらに配備先も最前線のみならず、本土や他の海外州の部隊にも機種更新を理由に回され、『黄金鷲』に十分な補給が行えなくなっている事。
そして一番の問題と言えるのが、レジスタンスによる補給路の妨害であった。海路はユースティア王国海軍の潜水艦や人魚族、及び半魚人族のレジスタンスが通商破壊を仕掛けており、空路も携帯地対空ミサイルを密かに支給された者が攻撃を仕掛けている。これらの動きは北部のモンテニア王国が解放された以降に激化しており、軍上層部は間違いなくユースティア王国やエリス連邦が手を回していると考えていた。
そして現在、施設の一角にて突如として爆発が起きていた。何人かが負傷した様で、トレーラーハウスタイプの医療室に運び込まれているのが見える。そしてバレン達陸軍兵士が後始末の手伝いをする中、整備長は頭を抱えていた。
「先程の爆発で、スペアの幾つかが駄目になりました。これでは十二分な性能を発揮する事は難しいでしょう」
「…そうか」
報告を聞き、指揮官のバリオは短く答える。レジスタンスの妨害行為は悩ましいの一言であり、多くの戦闘機パイロットは『卑怯な行為だ』と唾棄している。彼らは空で正々堂々と相手と戦い抜くのが信条であり、地上でこうして不意打ちを仕掛けられるのは我慢ならなかった。
「ともかく、いつ任務が来たとしてもおかしくない。何とか出せる状態にしておいてくで」
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