第10話 モンテニア強襲
正暦1030年12月2日 ゴーティア大陸北部 モンテニア王国北部海岸地帯
北の静かな海を見渡す事の出来る平野。そこを東西方向に伸びる鉄道路線の上を、長大な鉄道が走る。貨車の上には何十何百もの車両が並び、客車には千人近くの将兵がすし詰めになっている。
この列車は戦線に向けて1個機械化歩兵大隊を輸送中であり、その規模は非常に大きい。すでに歩兵連隊司令部と2個機械化歩兵大隊は最前線に身を置いており、ユースティア王国軍の増強に対応している。ここまでの規模を投じれば、戦線を押し上げる事など造作もないだろう。
「しかし、南は大分騒がしい事になっている様だな」
客車の一室で、大隊長は部下達を前に呟く。大陸南部での海外州艦隊壊滅と海底油田基地の破壊は海軍と空軍の面子を台無しにしており、来る大攻勢に暗い影を落としていた。戦線に9個師団を張り付けての攻勢にはどうしても海軍の火力と空軍の広大な活動範囲が欠かせず、打撃力が不足していた。
「本国はさらなる兵力の派遣でこれを解決しようとしているが、本国は些かユースティア軍を過小評価しているきらいがある。慢心ほど危ういものはないというのに…」
「まぁ、こちらにはまだ『黄金鷲』が健在ですし、戦力も潤沢。いずれは挽回を果たすでしょう」
幕僚の言葉に、大隊長は小さく頷く。戦力規模で言えばガロア共和国軍は未だにゴーティア大陸最大規模を維持しており、逆転の機会はまだ残されている。本国での兵器生産も順調であり、新規編成された部隊もゴーティア大陸に送られている。故に彼らは戦略面で負ける事はないと確信していた。
「大攻勢は遅くとも来年の上旬に始まる。我らはその機が来るのを戦線で待つ事になるだろうが、我らは決して負ける事は―」
「おい、アレはなんだ…?」
兵士の一人が窓の外を見ながら呟き、幕僚達に高説を垂れていた大隊長は首を傾げる。すると外から幾つもの轟音が聞こえ始め、外へ目を見やる。と北の空から幾つもの航空機が飛んでくるのが見えた。
「なっ…!?」
大隊長は驚く。大陸の北には海しかなく、ガロア共和国空軍所属の飛行場があるなど聞いてもいない。であれば考えられる可能性は一つ。
「て、敵襲―」
血相を青くし、客車内がざわめく。直後、轟音と爆轟と共に多くの車両が転倒した。
・・・
『バッカニア1より「イシュタル」、攻撃命中。甚大な損害を認める』
空対地ミサイルの命中によって崩された列車を見下ろしつつ、〈シーファルコン〉パイロットの報告をシロコ達は無線で聞いていた。
星十字騎兵団第11竜騎兵大隊に属する彼女達の目的は、先程爆破した列車の始発駅。モンテニア王国北部の大都市ノストロージアの制圧であった。そのために現在、沖合には星十字騎兵団の主力部隊を乗せた4隻の揚陸艦と、それらを支援する海軍第2艦隊の姿があった。
『間もなく、ノストロージア上空に到達する。敵は戦線に兵力を割きすぎた影響で戦線後方への警戒がおろそかになりつつある。故に、我らはそこを突く』
指揮官であるロイターの説明を聞きつつ、彼らの乗る〈アルゲンタビス〉汎用ヘリコプター4機と、近接航空支援を行う〈ワイバーン〉攻撃ヘリコプター2機は、対空砲火の無い空を行く。その上空には4機の〈シーファルコン〉艦上戦闘機の姿。
『ノストロージアを視認、敵基地及び陣地の場所も大体把握した…ワイバーン1、これより攻撃を行う』
〈ワイバーン〉操縦士はそう応じ、市街地外縁に位置する防衛陣地に向けて多連装ロケット砲を発射。連続して放たれる70ミリロケット弾は少数の歩兵や砲兵が居座る陣地に命中し、突然の敵襲に戸惑う暇もなく、装備もろとも吹き飛ばされていく。
「て、敵襲!敵襲だ!」
「一体何処から現れた!?」
地上では生き残った兵士達が動揺を露わにする。市街地を巡回していた装甲車は急ぎ攻撃を受けた地点に向かい、歩兵達も小銃や短機関銃を手に向かう。そして敵機の姿を目にした時―。
「ノノミ、掃射開始」
「了解!」
ホシノの指示を受け、ノノミはドアガンとして設置された7.62ミリガトリング砲を発射。射線上にいた兵士は粉々に砕かれ、装甲車も全身に銃弾を浴びてガタガタと揺れる。と同時にスタブウィングに装備されたロケット砲から70ミリロケット弾が発射され、装甲車に命中。火柱を上げて沈黙する。
「総員、降下」
命令が下り、シロコ達6人の兵士はホイストを用いて降下。地上に降り立つと陣形を組み、そして郊外へ進み始める。別の機体からも同様に6人ずつ降り、計18人は郊外の広大な広場に辿り着く。数分後、増援を乗せたCH-2〈スカイカーゴ〉輸送ヘリコプターが現れ、地上の誘導に従いつつ着陸。1個小隊分の兵員と装備を降ろす。
「んじゃ、行こうか。総員付け剣、分隊前へ」
命令を受け、M24自動小銃の銃口下部に銃剣を装着し、6人の兵士達は前へと進み始める。目前に数人のガロア軍兵士が現れ、短機関銃を手に攻撃を仕掛けるが、シロコ達はある程度銃弾を逸らす防護魔法を身に纏っており、やや強引に距離を詰めてから発砲。5.56ミリ銃弾を食らった兵士は悲鳴を上げながら倒れていく。
「クリア。前へ進もう」
『こちら第2分隊、敵軍の備品倉庫を制圧。警備は退役間近の老兵一人のみ。素直に投降に応じてくれた』
『第3分隊、市街地で商店を物色していた敵兵と遭遇、これを制圧。我の被害は無し』
斯くして、都市ノストロージアはユースティア王国陸軍星十字騎兵団の手で制圧され、ガロア陸軍は戦線に部隊と物資を送る補給路の一つを喪失。戦線全体に大きな動揺をもたらしたのだった。
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