第7話 荒鷲の初陣

王国暦130年11月1日 ユースティア王国東部 エリドゥ海軍基地


 エリドゥの港湾部にある海軍基地、陸上司令部庁舎内にある会議室では、主力艦隊である海軍第1艦隊の面々が集い、会議を開いていた。


「現在、ガロア共和国海軍はエリス連邦への侵攻のためにミケドニア王国カロボス市に1個機動艦隊を展開。飛行場にも多数の爆撃機を集中させている。もしエリス連邦が敗北すれば、ガロア軍は大陸南部海域を完全に掌握する事となり、戦線は完全にガロア側の優勢に傾いてしまう」


 第1艦隊司令官のイッセイ・オオイシ海軍中将は、会議に参席する面々に向けて語る。王国海軍の主力たる水上戦闘艦の数は60隻程度。対するガロア共和国海軍は100隻を優に超えており、しかもそこにボドバを拠点とするミサイル艇部隊や潜水艦も加えれば、規模はぞっとしないだろう。


「よって、統帥本部は我が第1艦隊をエリス連邦近海へ展開し、敵艦隊を迎え撃つ事を決定した。特にゴーティア大陸南方海域に展開させられた敵機動艦隊を真っ先に撃破せねば、モニティア王国の解放も難しいままだからな」


「ですな…そこで『星十字』の出番ですか」


 佐官の一人が呟き、オオイシは頷く。そして幕僚の一人が説明を引き継ぐ。


「現在、星十字騎兵団隷下の航空部隊である第51独立飛行隊は先んじてエリス連邦に展開。ミケドニア領海内にある海底油田基地を攻撃する事となっている。現在海底油田基地は複数の油田リグとバージを組み合わせて駐屯地と飛行場を仮設している。何せ陸海空三軍の間の管轄争いで空母を建造する事のできない国ですからね」


 幕僚の言葉に、何人かは失笑を漏らす。情報部からの情報では件の飛行場には空軍の哨戒機と空軍の警備兵だけが配備されており、海軍は『空軍の小間使いだけはうんざりだ』と言わんばかりに海軍艦艇による警備を放棄していた。その不和が戦略に影響を及ぼしている事など知らずに。


「さて…そろそろ戦場へ赴くとしようか諸君。ガロアの連中にこれからの海戦の何たるかを教えてやるとしよう」


『了解!』


 将官一同は敬礼をしながら、オオイシの言葉に答える。この翌日、ユースティア王国海軍第1艦隊はエリドゥ港を出航。戦場となるだろうエリス連邦に向けて針路を取った。


・・・


王国暦130年11月4日 ゴーティア大陸南部沖合


 広大な海洋の上を、八つの灰色の物体が駆ける。ユースティア空軍最新鋭戦闘機F-5A〈イーグル〉は海上油田基地を改造したガロア共和国軍の補給基地を叩くべく、ミケドニア王国領海内に足を踏み入れていた。


「流石は最新鋭機、力強い速度ね…!」


『ああ…〈ファルコン〉とは全く比べ物にならない!』


 僚機が応答し、エリザベートは小さく頷く。マッハ2以上の超音速を以て蒼空を駆け抜ける最新鋭機の胴体と主翼下部には、空対空ミサイルと空対艦ミサイルが4発ずつ。その後方には〈スカイミラー〉早期警戒管制機の姿。


『間もなく敵基地のレーダーに捕捉される。相手が完全に迎撃態勢に入る前に、飛行場を優先的に破壊せよ』


「キャバリエ1、了解。行くよ、皆」


 4機の僚機に対して指示を出し、エリザベートはヘッドアップディスプレイに目標を照準する。水平線向こうの目標は機首の火器管制レーダーで捕捉しており、相手は逆に〈スカイミラー〉の電子妨害でこちらを捕捉できていない。


「キャバリエ1、フォックス3」


 引き金を引き、2発のM27空対艦ミサイルが発射。水平線を這う様に目標に向かって飛んでいく。即座に別の目標に照準を定め、もう2発発射。数十秒後に水平線の向こうに火柱の灯りが光る。


『命中を確認。油田リグの施設にも引火した様だ。これで船のバーベキューの出来上がりだ』


 食事をしながら管制を行っているのだろう。〈スカイミラー〉管制官の口に何かを含んだ声が無線に聞こえてくる。事前の情報によれば現在ミケドニア王国カロボスに停泊しているガロア海軍艦隊の燃料はこの油田基地から供給される石油で補給を行っているという。その艦隊の燃料が火災の原因となった事は自明であった。


「飛行場からは敵哨戒機が展開し始めている。さっさと蹴散らしてしまいましょう」


『了解』


 通信を終え、8機は基地を強襲されて浮足立つガロア空軍哨戒機へ攻撃を仕掛ける。爆撃機や輸送機を改造したものである空軍の哨戒機は、自衛用に機銃を備えているものの、超音速で飛び回り、ミサイルで一瞬のうちに堕とすジェット機相手には余りにも分が悪かった。


 眼下にはミサイルを被弾して炎上する石油リグと、その周囲で錨を降ろしていたオイルタンカーが炎上しているのが見える。例のカロボスに展開するガロア海軍艦隊に燃料を供給している船だろう。数分後、空を飛んでいるのは〈イーグル〉のみとなっていた。


『これで、第1艦隊が到着するまで敵は足踏みを強制させられる筈だ。全機帰投せよ』


「了解!」


 返答し、エリザベートは操縦桿を握りしめる。するとマリヤが無線で話しかけてくる。


『少佐、これで戦局は変わるでしょうか?』


「さてね…でも、これで相手は大分焦る筈よ。そこから先はどの様に転ぶのか、それは知る由もないけれどね」

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