第4話 黄金鷲の懲罰

正暦1030年/王国暦130年10月13日 モニティア王国上空


『こちら管制機『ハンドラー・シャルル』、敵機はユースティアの〈ファルコン〉を中心に総数96機。後方には爆撃機もいるが…連隊の戦力で十分に対処可能だ』


 上空を舞う早期警戒管制機からの報告を受け、隊長のエーダ・ディ・リ・バリオ中佐は各機に通信を入れる。


「了解した、ハンドラー・シャルル。オール1より各機、交戦開始せよ。我が共和国に栄光あれグロリエ・ア・レピュブリカ


『我が共和国に栄光あれ』


 それを合図に、24機のRG-3〈ティフォン〉戦闘機は、付近の野戦飛行場より出撃したスオーSu-9〈エクレル〉戦闘機と共に攻撃を仕掛け始める。ガロア語で台風を意味する名を冠した〈ティフォン〉は、10年前より始められた軍拡計画の中で開発された次期主力戦闘機の一つで、マッハ2以上の超音速と最大8発の空対空ミサイルによる高い戦闘能力を売りにしていた。そしてその高い能力は腕利きのパイロットと合わさり、序盤の侵攻ではモニティア空軍の戦闘機60機を空中で叩き落としていた。


 その24機の〈ティフォン〉の垂直尾翼と胴体には、金色の鷲エーグル・ローヤルのエンブレム。敵機の正体を察した連合軍の戦闘機パイロット達は揃って血相を変え、騒ぎ始める。


『くそ、『黄金鷲』の連中だ!』


『怯むな、数ではこっちの方が圧倒してるんだ!一気に押し込-』


 発破をかけた機体が一瞬で吹き飛び、同時に23の戦闘機が同様の末路を辿る。24の機影が通り過ぎた後、12の2機編隊へと散開。戸惑う連合軍機へと食らいつく。


 その飛行と攻撃は、まるで鷲が獲物に爪を食い立てるかの如くだった。トネル中距離空対空ミサイルとクロタル近距離空対空ミサイルが相手の死角より致命傷を叩き込み、機関砲が唸りを上げて主翼を引き裂く。そしてその毒牙はユースティア空軍にも及ぼうとしていた。


『フェネック1、援護を!こいつら素早い!攻撃の隙を見せてくれない!』


『無理だ、こっちも手古摺っている!隙を突けな―』


 無線が次々と切れていき、エリザベートはヘルメットの内側で表情を強張らせる。ユースティア空軍の戦闘機はチャフやフレアを標準装備しているが、それでも回避できるミサイルは2発までであり、中にはチャフをばらまこうとした隙を突かれて機銃で撃墜されるものまでいた。


「キャバリエ2、まだ生きてる!?」


『何とか…!』


 そう応じた直後、後続の〈ファルコン〉は翻り、同時にエリザベート機も反転。背後を狙っていた敵機を撃墜する。敵機は撃墜出来てはいるものの、その全てが〈エクレル〉であり、〈ティフォン〉は1機も撃ち落とされていない。海の方に目を向けると、ボドバに駐留していたミサイル艇が連合軍艦隊に突撃し、ミルグリム艦対艦ミサイルで駆逐艦を撃沈していく様子が見える。


『大尉、このままでは…』


「分かっているわ!でも…」


 エリザベートは歯軋りをしながら、操縦桿をきつく握りしめた。


・・・


「中隊各位、撃て」


 ボドバ市街地郊外の陣地に設けられた指令部にて、バレン中隊長は中隊各位に指示を出す。彼らが陣取るのは市街地へと通じる街道であり、連合軍は戦車を先頭に立てて突破を計ろうとしていた。


 とそこに、建物の影や木の茂みに身を潜ませる歩兵の攻撃が襲い掛かる。『ファゴート』対戦車ミサイルと75ミリ無反動砲が戦車の側面を穿ち、大爆発。絶命した戦車を避けようと後続車両が左右に分かれると、その進んだ先で地面が爆発。対戦車地雷と触発した車両はタイヤや履帯の一部を空中に舞い上げながら転倒する。


 歩兵達は一斉に突撃を開始するが、そこに複数方向からの機関銃の弾幕が突き刺さる。75ミリ歩兵砲の連続射撃と100ミリカノン砲の遠距離からの砲撃が複数人を吹き飛ばし、装甲車両群は複数方向からの砲撃で足止めさせる。


「歩兵の連中に手柄を取られるぞ!全車突撃!」


 中隊長の号令一過、14両のC-97中戦車が突撃を開始。90ミリ戦車砲が号砲を轟かせ、連合軍戦車を撃破していく。連合軍側の戦車も応戦するが、76ミリ戦車砲程度では太刀打ちできず、返り討ちに遭っていく。


「陸の連中は張り切ってるな、アンドリュー!」


『そらそうですよ、隊長。第56師団は手柄を得るチャンスを第101師団に奪われたばっかですからね!』


「よし、こっちも行くとするか!」


 その上空には、野戦飛行場から駆け付けた〈バルトゥール〉攻撃機が舞い上がる。対戦車ミサイルと30ミリ機関砲が上空から装甲車両を撃ち抜き、市街地郊外には幾つもの黒煙が立ち上る。制空権を失った地上部隊と艦船など攻撃機の的でしかなく、艦砲や対空砲で対抗するも〈バルトゥール〉の編隊は上空から一方的に装甲車両や艦船をミサイルと機関砲で啄んでいく。それはまさに『ハゲワシバルトゥール』の名の通りだった。


『全軍、撤退せよ。繰り返す、至急撤退せよ』


 敗北を悟った司令部は撤退命令を発し、連合軍は急ぎ撤退に入る。そこへガロア共和国軍は追撃を開始し、被害は拡大していく。日が落ちる頃には戦闘は落ち武者狩りの様相を呈していた。


 この日、連合軍はモニティア王国奪還のために『サウスリターン作戦』を実行したものの、ガロア共和国軍の反撃に遭い失敗。動員兵力7割を喪失する大損害を被る。特に第55戦闘攻撃飛行連隊の活躍は目覚ましく、連合軍戦闘機96機中63機を撃墜。『黄金鷲』の精強ぶりを内外に知らしめる結果となった。


 特にユースティア空軍第4航空団の損害は酷く、48機のうち36機が被撃墜。攻勢に対して提供した兵力が少ない事と、それに関連したガロア軍の過小評価はユースティア王国の信頼を著しく損ねる事態にまで発展したのだった。


・・・


ユースティア王国首都キヴォトス 王国軍統帥本部


「統帥本部長、見事に相手にしてやられましたね」


 統帥本部の一室で、一人の青年将校がサカタに話しかける。対するサカタは、自身の座る席で険しい形相を浮かべていた。


「まさか、相手がこうも早く虎の子の精鋭をぶつけてくるとは…『黄金鷲』の実力を侮っていたわけではありませんが…」


「だからこそ、でしょうね。何せモニティア王国は戦前より物流の要所でありましたから…となれば、重要な戦力で守り抜くのは当然の事。我々も、策を講じなければなりません」

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