第2話 リグリス爆撃
正暦1030年/王国暦130年9月29日 ユースティア王国 首都キヴォトス サンクトゥム城地下
開戦から2週間が経過し、ユースティアの中心たる首都キヴォトスには多くの情報が集まってきていた。それらの情報は政府と軍の情報機関にて集約・整理され、膨大な報告書という形で王宮サンクトゥム城地下の会議室に持ち込まれていた。
「現在、ガロア共和国軍は西ゴーティア海外州を起点に陸軍部隊を東進させ、7か国を占領。我が国を含む4か国に対して戦線を広げ、攻勢を準備しております」
会議室にて、王国軍統帥本部長のソウゴ・サカタ陸軍大将は国王ペテル・イズ・ユースト2世に報告する。会議室を見渡せば、ヒト族の閣僚・軍人は数名程度であり、多くは魔族出身の者ばかり。しかもサカタと首相は他のヒト族の閣僚とは肌や髪の色が異なっていた。
「現在、陸軍西部方面軍が迎撃を担当しており、空軍も防空任務に従事しておりますが、相手は攻勢の為に9個師団相当の兵力を戦線に張り付けており、航空戦力も常時十数機規模を上空に張り付けています。即時反攻は難しいかと…」
「ふむ…相手は此度の『侵略』のために、相当な兵力を用意したという訳だな。相手も『召喚』を成したか?」
ペテル2世の言葉に、サカタは無言を返す。この世界では度々新たな技術と概念を得るべく、異なる世界より人・モノを招く『召喚の儀』が執り行われてきた。特にユースティア王国は過去、召喚による人材・技術の取得に意欲的であった時期があり、今この国において政治・軍事・経済の中心となる人物の多くは召喚者当人ないしその子孫であった。
特に現国王ペテル2世は魔王の後継者と召喚者との間に生まれた存在であり、ヒト族と魔族の融和の象徴として祭り上げられていた。無論、課題も山積してはいたが、戦争が始まる前までは大きな問題にはなっていなかった。世論でも国王の非を論ずる類の批判はなく、『無謀な侵略を仕掛けてきたガロア共和国が全て悪い』と結論づけられていた。
「さて統帥本部長…敵軍の侵攻に対し、何かしら策は講じているか?」
「はい。先ず敵航空戦力は戦線から西に200キロメートルの地点にある、モンテニア王国のリグリス飛行場を占領。現地に爆撃機を集結し、再度爆撃を試みております。特にアビドス州のネフティス社は我が国有数の軍需産業…これを潰したがるのは自明の理です」
アビドス州を創業の地とするネフティスグループは、ユースティア王国の軍事力を支える大企業であり、工場の多くはアビドス州に存在している。開戦当日の時もその理由で爆撃機をアビドス州に差し向けている。
「よって、我らより先手を打ちます。目標はリグリス飛行場、第2航空団の戦力で以て強襲を仕掛け、当該飛行場を無力化。戦略爆撃を仕掛ける好機を相手から奪います。さらに制空権確保と陽動として野戦飛行場にも襲撃を仕掛け、退路を確保します」
その言葉に、国王の眉が僅かに動く。その理由をサカタは察してはいたが、この場では敢えて言わなかった。
「此度の戦争、我が国の存亡がかかっております。ここは敢えて大胆に動き、不遜にしてかつ邪知暴虐な彼の国の鼻を明かすと致しましょう」
・・・
王国暦130年10月3日 モンテニア王国上空
早朝、ガロア共和国の占領下に置かれた7か国の一つであるモンテニア王国上空を、12機の〈ファルコン〉戦闘機が舞う。その上空にはE-3〈スカイミラー〉早期警戒管制機の姿があった。
『これより電子支援を行う。作戦目標に到達するまでは無線封止し、念話による応答を行え』
管制官の指示に従い、エリザベートはヘルメットに仕込まれている魔法具を起動する。召喚者のもたらした技術は魔法に新たな可能性を見出す契機となり、ユースティア王国は科学技術にのみ依存するガロア共和国に対する有利を得ていた。その一つとして、念話を魔法で行う魔法具があった。これなら電波妨害中でも連絡は出来る。
『目標まで、あと3万…対空警戒レーダーの反応を確認、しかし電子支援により欺瞞効果を認める』
『了解した。各機、攻撃準備』
隊長機が念話で指示を出し、エリザベートは目標指示ポッドで目標の飛行場に狙いを定める。そうして低空を這う様に迫ること数分、レーザー誘導爆弾が自力で滑空して届く距離にまで距離を詰め、照準器にレーザー光の照射地点を合わせた。
「キャバリエ1、投下」
『キャバリエ2、投下』
主翼下に搭載していた2発の250キロ航空爆弾を放り投げる様に投下し、上昇。他の機体も同時に爆弾を投下し、上方へ上がっていく。相手もようやく敵襲に気付いた様だが、余りにも遅すぎた。
火柱が滑走路を赤く染め、同時にサーチライトが空を照らし出し始める。攻撃担当は身を翻し、再度爆撃を開始。対空機関砲が四方八方へ火線を伸ばす中、6機は駐機中の爆撃機に向けて爆弾を叩き込んだ。
『くそ、爆撃機を狙われているぞ!』
『味方に救援要請を送れ、急げ!』
地上では阿鼻叫喚としか例えようのない状況が広がり、その中で味方機は燃料タンクを破壊し、戦果を拡大していく。ここまで徹底的に破壊していけば、ガロア共和国はしばらくはユースティア本土へ戦略攻撃を行う事は難しいだろう。
「これで、本土はしばらくは大丈夫ね。でも、ここからどの様に巻き返すのやら…」
エリザベートは愛機のコックピットにてそうごちた。
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