第13話 手を繋いだ感覚と展望台の景色

璃乃と恋人つなぎをしたまま、電車に乗った。

周りからどう見られているんだろうと気にしながら、座席に隣同士に座る。

駅にとまるたびに次々と乗客が乗り込んでくる。

止まるたびに車両が揺れて、肩と肩が触れる。照れて顔が赤くなる。

告白して、距離が縮まったはずだが、さらに恥ずかしくなる。

付き合うってこんなに照れるものなのだろうか。

片想いの時はまだかどうだと気持ちが焦るばかりで緊張していた。

好きの許可がおりて安心からか。さらに鼓動が早くなる。

もっと近くにいたい気持ちが強まった。

隣に座って手をつないでいたが、さらに指と指を強くにぎりしめた。

璃乃の熱がじんわりと伝わって来る。背中が何だかそわそわする。


「煕くん……どうかした?」

 

 握りしめた手が強くなって驚く。


「ごめん。何だか緊張してさ。放そうか?」

「ううん。大丈夫。いいよ。つないだままで」

「うん。もうすぐ着くよね」

「そ、そうだよね」


 車窓をのぞくと、駅のホームにならぶたくさんの乗客が見えた。お互いの脈がわかるんじゃないかというくらいくっついた。

こんなに近くていいのかと冷や汗が出るくらいだ。


「行くところってどこだっけ」

「うーんと、忘れちゃった」

 

 今の状況でいっぱいいっぱいになってどこに行こうかなんて思いつかなかった。本当はフクロウカフェと言っていたが、それが無くても今は気持ちが満杯だった。どこに行っても満足する。欠けるところはない。一緒にいるそれだけでいいんだ。


「え、璃乃さん。行きたいところあるって言ってたじゃないですか」

「べ、別にもうどこでもいいじゃん。私は煕くんといればどこでもいいよ」


 つないでいた手を持ち上げた。煕は手を見て、何だかホクホクする。終点の駅について、手をつないだままホームにおりた。目的地も決めずにただただ2人で進む。どうして心が満たされているのかわからない。ただ隣にいるだけなのに。

璃乃は、終始頬を赤くして、ぺったりと煕の横にくっついた。


 高い複合施設のビルの展望台に行こうと煕の提案で向かう。まだ日が沈む前だった。だんだんと水色の空がオレンジに変わっていく。その景色を見て、心が洗われた。展望台のベンチの上、手の上に手を置いて、顔を見合わせる。静かに璃乃は目をつぶった。煕はそっと口づけた。誰もいなかった展望台にやってきたカップルが話しながら近づく。パッと顔を離して周りを確認する。まだ心臓がドキドキしていた。もう全力疾走したいみたいに汗もかいた。


「すごいドキドキしてる」

「う、うん」

「俺も」

「深呼吸しよう」

 

 スーハ―スーハ―と二人は立ち上がって両手を広げた。呼吸が整った。東の空に黄色に輝く満月が見えた。

 遠くで救急車のサイレンが聞こえる。日常的な空間が戻って来る。

 

  2人は目を見合わせて、笑い合った。

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