第14話 雨粒と傘と君と

とある日曜日に煕と璃乃はデートの約束をした。雨が降るという予報が出ていたため、行く場所も限られるだろうと近所にある大きな図書館に行くことにした。朝は、天気予報通りに土砂降りの雨模様。アマガエルも喜んで路上に飛び出すくらいだ。水たまりに波紋が何個もできる。傘とレインブーツが欠かせない。煕は傘だけあれば十分と気にしていない。むしろ多少濡れても平気だった。

 璃乃は車の運転免許を取得済だったが、両親の車にしか乗れない。日曜日はいつも乗る練習していたが、今日は両親とも用事があるとそれぞれ車を使って出かけてしまった。致し方なく、徒歩で煕と図書館に行く。待ち合わせ場所は小さな公園。ブランコと滑り台しかないところだ。近所の小学生の子どもには不人気なところだ。今ではテレビゲームがあるためか公園で遊ぶ子も少なくなっている。滑り台の降り口にも水たまりができていた。


「お待たせ。雨強くなっちゃったね」

「いや、全然待ってない。雨は浄化作用があるって言いますよ。心のリフレッシュ!」

「ポジティブすぎない?」

「まぁまぁ。雨男と雨女っすよね」

「……ハハハ。誰だって雨降るでしょう。水不足になっちゃうから」

「確かに迷信ですけどね」

「でもさぁ、晴れ女よりさ、雨女の方が確率的に低いから宝くじ当たる思いしたらラッキーだと思うのよ。だって、ほとんどが晴れなわけでしょう」

「……一年間のうちに雨になるのは確かに少ない方ですね。ずっと雨の日なんてないですし」

「雨の方がラッキーな人だと思う」

「極端ですけどね」

「……服は濡れますけどね」

「まぁまぁ、洗えばまた着れるでしょう」

「雨……俺は好きな方ですね。昔、水たまりで長靴履いて遊んでましたから」

「あ、それ、私もやったよ。ジャポンと入るんでしょう」

「そうそう。何かそれだけで楽しかった覚えがある」


 まっすぐに続く道路を歩きながら、話しているとまだ目的地に着かないでと思ってしまう。


「子どもの時ってなんでも楽しく考えますよね。大人になるとなぜか静かに過ごさないといけないみたいな……面白味がなくなるっていうか」

「無邪気っていいよね。私も楽しめるならそれでいいと思う。年齢は関係ないよ」

 

 傘に雨粒が次々当たる。雨脚が強い。水たまりが川のようになっているところもあった。


「図書館で返すのありました?」

「うん。これだけね」

「ちょっと雨強ぎますよね」

「んじゃ、図書館行ったら、そのまま私の家においでよ。ちょうど両親も夕方まで帰らないから」

「そうなんですね、んじゃそれで」


 煕は璃乃の言う通りに過ごすことにした。特に文句もない。雨も強くて、帰るとき大変だなという考えしか思いつかなかった。傘についた雨をバサバサと払って、くるくるとまるめて傘専用のビニール袋に入れた。もうひとつの自動ドアをすぎると、男性が通り過ぎようとする。


「あれ……」


 璃乃はㇵッと体が硬直した。珍しい姿を見た煕はくすっと笑った。


「え?」


 すれ違った人と璃乃は顔を見合わせる。

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