第7話 高嶺の花男とのダブルスのペアを組む

ひつじ雲が広がる青空に太陽の光が雲の間から差し込んでいた。

人口芝のテニスコートでかけ声が響いている。

璃乃は、大学のテニスサークルに参加していた。男女混合のサークルだった。

今年で2年目初心者にしてはだんだんとコツをつかみ、試合にも参加できるようになっていた。


「璃乃さん、だんだん上達してきてるね」

 同じ学年の中学からしているテニス経験者でベテランの坂本斗煌さかもとときはイケメンで身長も高く、女子に大人気だ。テニスの教え方もうまい。男女関係なく話せる人で璃乃にとっては高嶺の花男だった。


「そんなことないよ。まだまだ初心者だから。試合には出れるようになってきたけど、初めの頃は打つのでさえもひょろひょろで……坂本くんの教え方がうまいからだね」

「いやいや、それは璃乃さんの力でしょう。成長してくれて俺も嬉しい。本当に教え甲斐があるよ」


 斗煌は、璃乃の肩にポンと触れて、立ち去った。ほかのクラブの子に話しかけに行ってしまった。毒がない。指導もうまい。憧れていた。ただ遠くから見て、いいなとは思うが、恋愛対象ではない。自分が彼に届くわけがない。次元が違うと思っていた。その時までは。テニスコートのフェンス近くで何度も素振りをして、練習していると、斗煌が話しかけて来た。たくさんの女子がいる中でなんで自分に話すのだろうと疑問に思う。特に教えられることもないだろうに。


「璃乃さん、こっちのメンバーが奇数でさ。ダブルスするのに人数が合わないんだ。もしよければ、組んでくれないかな」

 思いがけない声かけだった。


「え? へっぽこな私で大丈夫なの?」

「いやいや、へっぽこじゃないから。大丈夫だよ。ダブルスやったことあるよね?」

「うん、大丈夫」

「よし、メンバーそろったから大丈夫だね。試合しよう!」


 斗煌の一声で試合が始まった。主審の女子と副審の女子がチラチラとこちらを睨んでいる。きっと斗煌を好きな人なんだろう。そんな状態の中、なぜか璃乃は斗煌とペアを組んでいる。睨まれていい雰囲気ではない。


「坂本くん、私やっぱり……」

「ごめんね、俺後衛するから璃乃さん前衛してもらっていいかな?」

「え……うん」

 事が進むのが早くて断ることができなかった。斗煌のペースに持っていかれている。


 対戦する相手は男女カップル同士の2人だ。斗煌は複雑だったんだろう。カップルと試合だなんてと考えていた。もしペアにするなら璃乃がいいと思っていた。

 

 ホイッスルが鳴った。

 斗煌のサーブから始まる。第1球目はしっかりと入っていた。順調にラリーを続ける。そのスピードに追い付こうと璃乃は必死でボールを追いかけてネットのぎりぎりを守っていた。ほとんどは斗煌のフォローで試合は進んでいる。璃乃もㇵッと気づいた時にボレーを打ちこんで得点につなげた。

 あっという間に試合が終わった。

 ベンチでスポーツドリンクを飲んで一息ついていると、斗煌が声をかける。


「お疲れ様。急遽、参加してくれてありがとう。助かった。最後の1セット惜しかったね」

「お疲れ様。ほとんど坂本くんに任せっぱなしでごめんね。やっぱり緊張して動けなかった。斎藤さんだっけ。スマッシュ強いんだもん」


 自然の流れで会話が弾む。チラチラとサークル仲間から睨みを受ける。一緒にいない方がいいなと席を立とうとした。


「どこ行くの?」

「あ、ごめん。ちょっとトイレに行こうと思って……」


 璃乃は、重圧に耐えきれず、その場から逃げ出そうとした。斗煌は璃乃の腕をつかんでいくのをとめようとしたが、すぐに離した。斗煌は寂しさを感じた。もうその日は璃乃と斗煌は話すことはなかった。


 斗煌と接点はそこまで無かった璃乃にとってそわそわした気持ちが残った。更衣室で私服に着替えると、スマホのバイブレーションが鳴った。煕からのメッセージに心躍った。


『菅原さん、今日会える?』

『うん。今手が離せないからもう少ししたら電話するね』


 がやがやと賑わう女子更衣室でバックにスマホを入れて外に出ようとした。


「あ、菅原さん?」

 テニスサークルの大学3年の部長の佐々木友理奈が璃乃に声をかける。試合中に睨んできた人の一人だ。


「え?」

「ちょっと聞きたいんだけど……」

「あ、はい。何ですか?」

「斗煌くんとはどういう関係?」

「……ただのサークル仲間ですけど?」

「……ああ、そう。ならいいわ」

 少し微笑んで、友理奈は璃乃よりも先に外に出た。斗煌と交際してるかどうかを確認したかったようだ。すぐさま、着替え終えた斗煌のもとへ駆け寄っている。璃乃は急いで、その場を後にした。走っていく璃乃を後ろから横目で斗煌は見つめている。


(今日も最後まで話できなかったな……)


 残念そうな顔をしてため息をついた。璃乃は、煕に会えると思うと心が躍っていた。スマホの通話ボタンをタップする。

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