第2話 ヴェルバティ起動せよ
「ひとつ、ふたつ、みーっつ」
ガナン軍のパイロットであるアロン・スミス曹長は、重要な施設と思しき箇所を数えつつ、フー2の主兵装である127ミリ単装砲をオートで発射しながら機体を横滑りさせるように動かしました。それだけで昏陽の基地は面白いように次々崩壊し、中から機材のみならず多数の人が次々宇宙空間に投げ出され、しばしもがいてから次々と動かなくなっていくのでした。
「何だあ? 何でこんなに、コフィンスーツを着てない奴がいるんだ?」
それはゴシキたちと同じ輸送艦隊で実習に来ていた学生たちだったのですが、スミス曹長のあずかり知らぬことでした。
「おっと、行き過ぎても困るな」
ある程度攻撃を加えたところで、彼はフーを後退させました。すると、長機であるスミス機と入れ替わるように、僚機のフー1が前に出て反対方向へと横滑りしながら別箇所に攻撃し始めました。
フー1は史上初めて開発されたモビルコフィンです。地球時代の潜水艦を思わせるフォルムに、推進用のスラスターを艦尾にあたる部分に装着したような姿をしています。全長は17.5メートル。コクピットはほぼ中心にあります。
潜水艦ならブリッジがある部分には主砲である127ミリ単装砲──これはフー2とも共通です──を装備しており、旋回や角度変更を行う砲塔部分には砲身と連動する、装甲で覆われたガンカメラが設置されており、潜水艦なら艦首にあたる機首のメインカメラの映像とは別に、ガンカメラの映像を通じて目標を視認して攻撃できるのが特徴です。
場合によっては機首下部に装備されたヒートラムという衝角を突き立てるように体当りすることで、戦艦すら沈めることが可能でした。
作戦によっては無誘導型のミサイルや迫撃砲などをオプションとして装備することもでき、様々な作戦活動に従事できるよう設計されています。なお、着地時にはランディング・ギアを前に2つ、後ろに1つ出せるようになっていますが、地上では車輪付きのギアに換装して走り回っているようです。
一方、フー2はガナンが誇る傑作機フー1の各部を強化した、言わばバージョンアップ機です。
かつてテストパイロットに『史上最も高価な棺桶を国家予算で造りやがった』と揶揄され、モビルコフィンという兵器カテゴリ名の元にもなったフー1ですが、戦争序盤の『クロスオールト会戦』での圧倒的な戦果からガナンのパイロット達の間で最も信頼厚い兵器となりました。
そのフー1にも運用するうちに問題点が出てくるようになり、これらを改善するためにマイナーチェンジしたのがフー2でした。
形状はほぼそのままに、推進用のスラスター二基を大型化かつ別々に動かせるよう見直されています。また、全身の姿勢制御と細かい機動制御のための小型スラスターを倍増させ、強化された通信機器とカメラ、センサー類も相まってよりパイロットの直感的な操縦に応えられるような機体へと生まれ変わったのです。圧倒的な性能となったフー2は主に隊長機などとして配備され、戦線各地で猛威を振るっています。
なお、フー1は基本的に紺色、フー2は灰色で塗装されているので、遠目にもどちらがどちらか分かります。
「簡単なお仕事だな?」
は、と鼻で笑うスミス曹長は全く想像もしていませんでした。このほんの十数分後の自分たちの運命を。
────────────────
司令部にゴシキたちが飛び込んだとき、一瞬司令部の面々が希望の目を向けて、すぐに失望した様子でした。あからさまに落胆した様子の面々を前に、
「え、あの、すみません?」
思わず謝ってしまうゴシキでしたが、すぐに後ろから「何を謝っているの」と呆れたように声をかけられて「ケントゥリオ候補生!」と振り返って笑顔になりました。
「基地の責任者はどちらですか!」
シンシティの問いに、女性の一人が答えました。
「それが、総司令官以下主だった方々は対策会議に出席したまま戻らないのです」
「貴女は?」
「はい、オペレーターを務めておりますケレット・カ・オ上等兵です」
敬礼して答えるオ上等兵に、シンシティは問いを重ねました。
「では、この場には指揮を取れそうな方はおられないのですか?」
「はい。ここに残っているのは、ガス採取基地だった頃から働いていて、開戦後軍事基地に改装されたのに伴い軍属に改められた者ばかりです。あとは見学の学生が数名です」
「では、会議室へ人をやってはどうでしょうか。私もここは初めてですから、誰か内部を知る人のほうがいいかと思いますが」
なるほど、とオ上等兵が振り返ると「僕が行こう」と若い男性が出入り口へと流れてきました。
「貴方は?」
「彼女と同じくオペレーターを務めるマート・サイウン上等兵です」
「サイウン上等兵、コフィンスーツを着たほうがいいですよ。攻撃されたみたいですから」
シンシティが具申すると「確かに。ありがとう」と彼はロッカーに向かい、コフィンスーツを身に着けてから司令室を出ていきました。
程なくして、コフィンスーツ姿の女性が飛び込んできました。まだ若いようですが、シンシティよりは年上のようです。
「貴女は!?」
「軍医のマーシー・コンフォートです! 負傷者を一人連れてきました!」
続いて入ってきたサイウン上等兵は人を一人おぶっていました。コフィンスーツのバイザー越しに見ると、なんとシンシティの指導教官役であるバール艦長でした。
「他の方は?」
「直撃弾があったようで、壊滅状態です。私が駆けつけたとき、息があったのはこの方だけでした」
マーシーの回答に、司令部の空気が重くなったのが感じられました。
「バール艦長! 指揮をお願いします!」
艦長を近くの椅子に座らせながらそう声を掛けるシンシティでしたが、艦長は「私は……とてもではないが、指揮を、執れる状況に……ない」と苦しげに答えました。彼は死をまぬがれたもののかなりの重傷で、気を失っていてもおかしくないほどでした。シンシティはマーシーに顔を向けましたが、彼女は首を横に振ります。絶対安静だとはっきり態度に示していました。
しかし、指揮を執る者がいないと始まりません。どうしたものかとシンシティが辺りを見回したその時、艦長が再度声を発しました。
「君が指揮を執るんだ……ケントゥリオ候補生。君の能力は、教師陣皆が……認めるところだった。やれとは言わん。……やるしかないんだ」
やっとの思いで声を振り絞ったのでしょう。艦長はそれっきり、苦しげに息をするばかりとなり「息を整えてください! ゆっくり、ゆっくりです!」とマーシーが慌てたように声をかけたところを見るに、状態があまり良くないようでした。
見回すと不安を顔を張り付けたような人ばかり。どうやらここは本当に私がやるしかないらしい、とシンシティは覚悟を決めました。
最も近い友軍は、地球圏で言えば火星にあたる軌道に位置する、第弐螢惑(だいにけいこく)の基地にしかいません。ゼノドゥーエまで最短でも3日はかかります。となると自分たちだけでこの事態を切り抜けないといけないわけです。
「──この場の指揮を預かることになりましたシンシティ・ケントゥリオです」
はっきりと告げ、腹をくくって思考をまとめます。友軍の援軍が望めない以上、連絡は後回しです。
「オ上等兵、まずは基地内に放送! 生存者は司令部に避難するようにと!」
命ずると、ハッとしたような顔になって「イエス、マム!」と返してから席に着いてくれました。
彼女がマイクに向かうのを確認する間もなく、今度はシステム担当の腕章をつけた男性へと顔を向けます。彼の傍らには、三人の軍学校の学生の姿もありました。
「貴方たちは!?」
システム担当の腕章を付けた、ガッチリした体格の男性は、少しぎこちなく敬礼しながら答えます。
「システム担当のカモイ・アカシ伍長であります!」
続いて、学生三人のうち長めにした茶髪で遊び人のような外見の一人が、しかしきちんと敬礼します。
「自分は機械工学科学生のアルヒ・リューです。隣の二人は自分の三つ子の弟たちです」
角刈りのいかにも真面目そうなのが続いて敬礼します。
「自分は情報工学科学生のアルト・リューです」
最後にメガネをかけた一人が、他の二人が自己紹介を終えるのを待ってからゆっくりと敬礼しました。
「電子工学科学生のアルドン・リューです。末っ子です。ここには見学のために来ていました」
聞くや、シンシティは間髪を入れずに命じます。
「アカシ伍長、被害状況を確認してください! 三兄弟はその手伝いを!」
対してアカシ伍長が言い返してきます。
「し、しかし、各所との連絡が途絶えていまして」
「基地全域の電気系統を確認して電気が通っていない箇所をピックアップ! 量子通信が可能かどうかも併せて確認して!」
そうか、その手があったかと彼も弾かれたように自席へと向かいました。三兄弟もここは手伝わねば、と伍長の指示に従って別々の席に着くのでした。
「あとは……そうだわ、マーシー、衛生兵は居ないかしら? きっとこのあと負傷者が多数来ると思うから、受け入れ体制を整えないと。その指揮を任せるわ」
「は、はい!」
マーシーが頷きました。そこへ外から飛び込んできたのは、看護兵の腕章をつけた少年兵でした。シンシティやゴシキとそう年は変わらないでしょう。
「よかった、コンフォート医官殿! 無事でしたか!」
「ヒカワマル君!? 君も無事だったのね! 他のみんなは!?」
マーシーの問いに、ヒカワマルはふるふると首を振りました。
「ちょうど直撃した場所にいたみたいで、みんな……」
「そう……ヒカワマル君、一緒に手当てにあたって。悲しむのは後にしましょう。ケントゥリオ候補生、こちらは看護学徒兵のタチバナ・ヒカワマル君。彼にも手伝ってもらいます」
「ええ、お願いします」
シンシティが了承の頷きを返したところで、アカシ伍長が手を上げました。
「3時から6時の北極側、主に外周部に電気系統の停止地域が集中しています。量子通信は一応可能ですが電気系統の不備により安定した通信はできそうにありません。司令部隣の補助発電機を動かせば安定させることは可能そうです」
「そう、被害箇所と一致するわね。発電機は動かせる?」
「はい、学生を数名お借りできればすぐにも」
「分かりました。アルヒ学生、アルドン学生の両名はアカシ伍長を手伝うように。アルト学生は残って量子通信機を確認!」
「はい!」
次いで、シンシティはナナヤ博士に問いかけます。
「今、すぐに動かせるモビルコフィンはありますか!?」
「ヴェルターレットG型が一機、それにヴェルバティが出せる。ちょうど艤装を終えたところだったからフル装備だ」
聞かれるであろうことを予測していたのか、即答でした。
「パイロットは!?」
シンシティの問いに答えたのはサイウン上等兵でした。
「全員、試験場にいたはずですが、連絡取れません!」
「そう。となると……」
シンシティの顔が、ゴシキたちの方に向けられます。まさか、とゴシキたちが身構えると同時にシンシティは告げました。
「出撃よ、キ学生、サン学生、クアットロ学生」
やはり、とゴシキたちは背筋を伸ばしました。今のところそれしかないであろうことは彼女たちも理解してはいたのです。そこでフェイイェンが右手を挙げて質問を投げかけます。
「しかしケントゥリオ候補生。ヴェルターレットは艇長、操舵手、砲手、索敵士、通信士の五名で動かすものではありませんでしたか? 三名では厳しいかと」
「そうか、まだ説明を受けていなかったのね。G型はこれまでのヴェルターレットとは一線を画する機体だそうよ。ですね、博士?」
「うん。ようやくモビルコフィンは補助艦艇の類ではなく戦闘機に近い新たなカテゴリーだと理解してもらえて、タンデム型にまとめることができたんだよ。だからG型は基本的に一人で全ての操作が可能だけど、二人で負担を分けることができるようになっている。対して新型機であるヴェルバティは一人で全てコントロールする、よりフーに対抗することを目指した機体になっている」
ナナヤ博士の説明に、3人も納得して頷きました。
「作戦を説明するわ。まず、サン学生とクアットロ学生はヴェルターレットに搭乗。サン学生を操縦士兼砲手に、クアットロ学生を索敵手兼通信士に据えて運用する事とします。ドック出口に陣取り、そこから索敵。ガナン軍の軍艦を発見し次第砲撃せよ」
「えっ! モビルコフィンを発進させるくらい遠いのでしょう? 有効射程内なんですか?」
「ええ。私もここに来る途中に受けたブリーフィングの時に初めて聞いたのだけど、G型に搭載された36センチ長射程二連装リニアレールガンは、有効射程およそ100万キロメートルだそうよ。十分に射程内だと考えられます」
続いてシンシティはゴシキに向き直って、内心残酷なことを告げることにほぞを噛みながら話を続けます。
「キ学生はヴェルバティに搭乗し、ヴェルターレットに先んじて出撃。フーを引きつけてヴェルターレットの射線を確保するのが役割よ。──要は囮。非常に危険な役割よ。だから、無理だと思ったら──」
「やります!」
ゴシキの回答は即座で明快でした。
「それとケントゥリオ候補生。囮になるのはいいんですけど、別に撃墜しちゃっても構いませんよね?」
おどけたように口にするゴシキに、シンシティは『気を使われたわね』とすぐ悟りました。
「──ええ、そうね。できるなら落としちゃってちょうだい!」
「それは良いのだけど」
手を挙げてハイアーテが疑問を投げかけます。
「砲撃が成功したとして、それで攻撃が止むのでしょうか? それに、これから出る方角に本当に艦隊がいるのでしょうか?」
「確実なことは言えない。けど、一時的には攻撃をやめて後方に下がらせることはできるはず」
シンシティは両手を前に出してそれぞれ指を1本ずつ立てました。
「ガナンの部隊や艦隊の運用は、基本的にツーマンセル型。これはどんなに規模が大きくなっても同じで、前衛部隊と後続部隊、あるいは前衛艦隊と後続艦隊とが互いに連絡を取り合いながら、作戦状況に応じて位置取りを変えつつ運用されることになっている。今回の攻撃は一方からだけで包囲戦になっていないこと、推定されるモビルコフィンの数、これらから現在攻撃を仕掛けてきているのは前衛艦隊のみと考えられる。恐らくは抜け駆けでしょうね。故に、母艦を沈められれば近づきつつある後続艦隊に拾ってもらうべく撤退するはず。また、フーは母艦に帰る時にビーコンを受けて位置取りをするのだけど、ビーコンの受信可能距離はあまり長くないことから母艦の位置を常に視界に収めようとするはず。なので、フーが攻撃を加えている方角に母艦もいるはずだと推測できる」
シンシティの説明には説得力があり、皆もなるほどと頷くのでした。
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「親父! 待ってたぜ!」
「ショウ!? お前、司令部に避難しなかったのか!?」
「ああ。折角ここまで準備した新型機をガナンの連中にやらせるわけにゃいけねえだろ? 連中が乗り込んできたら白兵戦も辞さないつもりで待ってたんだ。司令部の話はこっちでも聞いてた。出撃するんだろ? 炉心は暖めておいた。いつでも行けるぜ」
二機のモビルコフィンが安置された通路は奥に入り込んでいたこともあり、試験場とドック双方が攻撃に晒されたにもかかわらず無傷で済んでいました。
ゴシキたちがナナヤ博士の案内で到着すると、二人の男が待ち構えていました。その一人がなんとゴシキにとっては従兄弟にあたり、お隣さんのフェイイェンとも幼馴染のキ・ショウでした。
「ショウ兄ちゃん! 軍に入ったと聞いてたけど!」
「おう、『白麟』の舵を任されてた。艦内で作業してたからさっきの攻撃でも無傷で済んだ。『白麟』以外はスクラップになっちまったようだが」
肩をすくめて首を振るショウにゴシキは「同じフネに乗ってたんだよ」と返しました。
「あ、ハイアーテ、紹介するね。こちら、キ・ショウ。私の従兄弟のお兄ちゃんでナナヤ博士の息子さん」
「おっと、お嬢さん。俺のことはぜひショウ・キと呼んでくれな! ショウ・キ曹長だ。よろしくな」
ニヤリと笑って歯を無意味に光らせながら告げるショウに、何でですかと聞き返すハイアーテでしたが、返ってきた答えはというと。
「その方がカッコいいからだ!」
なんとも言い難い回答に曖昧な笑みを浮かべるハイアーテでした。ゴシキ、フェイイェンはいつもの病気が出たねーと聞き流す程度の反応でしたが。
もう一人の男はショウの同僚で、索敵手兼通信士のアイン・ヴァンダーファルケ曹長と名乗りました。
「フネが大好きで、フネに関わる仕事がしたくて職を求めたら、戦時中だからここしかないということで軍に入りました」
金髪碧眼で長身の男性です。女性としては背の高いハイアーテと比べても、頭一つ分は高いのは凄いなと思うゴシキでした。
ナナヤ博士に取説をダウンロードしてもらってバイザー内ARディスプレイで一読したゴシキは、フェイイェン、ハイアーテに先んじて先頭のヴェルバティへと駆け寄ります。機体を覆う灰色のカーボンファイバーシートを外すと、白い機体が出てきました。
「これが、ヴェルバティ」
「そうだ。昏陽の希望だ」
ゴシキがヴェルバティの上部へとふわりと浮いて向かい、床面から4メートルほど高いところで機体を見回しますと、ナナヤ博士が下からそう答えます。
昏陽星系連合が命運をかけて開発した、初の本格的モビルコフィン。全長18メートルに及ぶそれは、ほぼすべてが白く塗装された機体でした。
全体的にはクジラのような海洋哺乳類を図案化したような形状をしています。胸ビレのようなものはありませんが。
機首は四角く感じられる形状でしたが、よく見れば若干複雑な装甲の重なり方をしているのが分かりました。先端にはメインカメラであろう横長のスリットが開き透明なバイザーがかかっており、両脇には目測で八十八ミリ程度の砲口が見て取れます。これらの上部の装甲が他より青みを帯びたものに変更されていることから、そこが開いてメンテナンス出来るようにしてあるのだろうと思われます。また、機首下部には引き出し式の機械が付いているようです。取説を読んだゴシキは、それもまたヴェルバティの武器なのだということを理解していました。
最も目立つ武装は、船ならば甲板にあたり、クジラなら背中にあたる部分に設置された単装砲でした。ボディ同様に白い装甲で覆われた基部にガンカメラを備えるのはガナンのフーと同様ですが、より鋭角的なデザインとなっており、ガンカメラの形状からしてだいぶ異なりました。
その後ろには若干膨らんだ──装甲が他より分厚くされた部分があり、そこにハッチがあることもゴシキは理解していました。
後端に向かって若干細くなっていく尾部は末端で横に広がり、スラスターの代わりに上下に可動する二枚の大きめの板を備えた、エアアウトレットを思わせる孔があり、その両脇にサブスラスターが二基という構成になっています。全身の姿勢制御と方向転換用の小型スラスターはフーのものより数も多いのですが、ナナヤ博士が組んだシステムとAIにより、パイロットの直感に忠実な機動を実現することになっています。
現在、艦首下に一つ、艦尾近くに2つの車輪付きランディングギアが出ています。もちろん電磁石によって床面に接地しています。
「乗り込み方と起動の仕方は頭に入ってるね?」
「もちろん。暗証番号は、と」
ハッチの傍らに蓋付きの電子錠があります。蓋を開いてテンキーをピポパポパ、とメモも確認せずに入力すると自動的にハッチが起き上がるように開き、操縦席が下からせり上がってきました。
操縦席に身体を預けてシートベルトを締めるとすぐに下降していき、同時にハッチも閉まっていきます。中は既に照明からディスプレイまで電気が通っており、思った以上に明るくなっていました。
ナナヤ博士から預かった個人認証カードをディスプレイ脇のスロットに差し込むと、虹彩の登録などが始まります。ほんの数分で登録は終わりましたが、体感時間は長く感じられ、じりじりと待つ感覚を味わわされました。
これで出撃準備は完了です。左手は左側操縦桿に添え、右手は背もたれの上から伸びたフレキシブルアームによって、水平方向から真上までどの方角へも向けられるようにセットされた主砲コントロールバーの銃把を握って、司令部に通信を繋ぐとゴシキは宣言するように声にしました。
「キ・ゴシキ、ヴェルバティ、出ます!」
────────────────
鼻歌交じりに基地に127ミリ弾を撃ち込み続けていたアロン・スミス曹長は、先ほど僚機の一つがオプション兵装の240ミリカノン砲を撃ち込んで中の艦艇を吹っ飛ばしていた、当のドックから何かが飛び出してきたのに気付き、
「なんだぁ?」
と思わず呟いたその声が、最期の声となりました。
高速で飛び出したヴェルバティがフーとすれ違いざまに主砲である110ミリ単装リニアレールガンを放ち、コクピットを正確に貫いたのです。
口径こそフーの主砲より小さいですが、初速は比較にもならないほど速く破壊力も上で、フーの分厚い装甲をやすやすと貫通しました。そのような弾丸を食らって何が起きたかも分からないうちに爆散し、アロン・スミスという男の意識は永遠に途絶えたのでした。
「まずは一つ!」
ゴシキが叫びました。
これが、後にガナンの将兵から『昏陽の白い魔王』と恐れられることになるトップエース、キ・ゴシキの鮮烈なるデビューとなったのでありました。
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