独白殺し
ぽんぽん丸
第1話 母
母との食事はここ最近頻繁になった。私が正社員の仕事を辞めてカウンセラーを目指しはじめたからだ。
「このお店美味しいでしょ。この間柏木さんに教えてもらったの。お母さん1人じゃ地下のこのお店入れなかった。柏木さんには感謝しなきゃね」
母は私をお昼ご飯に呼んで明るく話す。
「柏木さんって昔は海外で商品の買い付けをするお仕事してたから日本で何が起きても怖くないんですって。言葉が通じるなら大丈夫って言うのよ。お母さんは信じられない」
そして私の判断を肯定するような流れを作り出す。
「私たちの頃は柏木さんみたいな人って色眼鏡で見られたものだけど、もう女性でも1人でやりたいことして立派に生きていかないといけくなったものね」
そしていつも通りの結論に向かう。
「でも忘れないでね。どんな道を進んでも家族が1番大切なの。お母さん、あなたが1番大切。自分を大切に生きてね」
結局は何が一番大切にすべきなのか、少し複雑な決まり文句を私はいつも通りに笑顔を作って受けとって母に感謝を伝える。
あえて暗くした店内を青や赤や黄の蕾を模したようなランプが賑やかに飾っている。赤く照らされたバジリコソースのパスタはより珍しく見えた。フォークで巻き取って口に入れると油とバジルの味がした。この油とバジルの味が、美味しいのか美味しくないのかはよくわからない。だけど繁華街の大通りから少し外れたビルの地下で繁盛するお店なのだからこれはきっと美味しいのだろうと思った。
1人暮らしの家に帰って私は泣いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます