第15話
靭の言葉を遮り、怒ったような顔で、朝周は告げる。
「が、気持ちが落ち着くまで歌劇団にいればいい。練習に耐えられなくなったら俺のところに来ればいい。なんせ七色の声を持つ歌姫と正面からやりあって勝てるとは思えないからな」
靭、ちょっと向こうに行ってろと目で合図した朝周は、彼の姿が見えなくなるのを確認してから真面目な表情に戻り、翡翠に囁く。
「舞台が厭になったらいつでも可愛がってやるよ。あと、喉は大事にしろよ、っと……」
「んふっ……ン!?」
物音を立てずに彼女の顎を掬い取り、舞台の
突然の接吻で時間を止められてしまった翡翠は初めての出来事を前に硬直している。
――嘘、いきなり口吸いしてくるなんて!? いやだ舌? 何? 口の中に入れられたの? ……甘っ!
唾液とともに入り込んでくる濃厚な砂糖の甘みに混乱しながら、翡翠は口内に転がってきた固形物を舌で味わい、それが彼の歯ではないことに気づいて正気に却る。
その瞬間、唇がはなれて銀色の唾液がたらりと零れ落ちる。
「っ!」
「これくらい、なんてことないよな? だって歌姫になるんだもんね」
「ふ、ふざけないでください! ……飴?」
「そ。黒糖飴だよ?」
悪戯っぽく笑いながら朝周はポケットから黒糖飴を取り出す。ふつうに手渡せばいいものを、わざわざ口移しで渡してくる時点で悪質だ。
「花嫁殿。俺のこと好きになってくれるかな?」
「……こんな破廉恥なことをいきなりしてくるひとは、嫌いです!」
ぷい、と顔を真っ赤にして背を向けて翡翠は逃げ出す。
そんな彼女をくすくす笑いながら朝周は、それでいいとこっそり嘯くのだった。
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