第14話

金で連れて来た婚約者――どこか棘のある言葉に、翡翠は苦笑を浮かべ、靭に礼をする。




「立花翡翠です。朝周さまとの結婚を迫られてはいますが、まずは金糸雀歌劇団の歌姫になるため、こちらでお世話になることになりました」


「……貴女が首位歌姫になるのなら、婚約をなかったことにする、でしたっけ」


「ええ。でもいますぐは無理だと思います」


「だそうです、坊」


「なぜ俺にふる」


「よい縁談だと思うのですが」


「本人たちを差し置いて周りが盛り上がっている時点で俺は気に食わない」




 気まずそうに翡翠から顔を背け、朝周は言い放つ。困惑する翡翠を見て、靭は朗らかに言い返す。




「彼なりの照れ隠しです。諦めてください」


「諦めるのですか」


「坊の天邪鬼な性格と奇抜な趣味は誰がなんと言おうとも翻ることがないのです。奥方になられるということはそれらすべてを大らかに受け入れる必要が出てくるわけです」


「はぁ」




 よくわからないと翡翠が首を傾げると、朝周と目が合う。彼の瞳は朝陽のせいか、澄んだ琥珀のように美しい。


 そして朝周も翡翠の自慢のまるい宝玉のような双眸に魅了されたのだろう、即座に視線を反らし、うろたえながら声を出す。




「靭。この砂糖菓子みたいな女の子をどうにかしてくれ。このままじゃ狸ジジイの思うつぼになってしまう」


「いいじゃないですか、可愛いんだし」




 慌てふためく朝周を見て、靭は面白がっている。その横で事情が呑み込めない翡翠だけがきょとんとしている。




「……まあいい。俺と結婚する気がないから歌劇団に行くのだろう? しばらくはそこで芸を磨くがいいさ」


「結局自分で自分の首を絞めてますね」


「いちいち余計なことを吹き込むな」


「坊が不器用だから注釈を加えているのです。老婆心と心得ていただければ……」




「だから! 俺はお前が気にいった」

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