第6話

「……え、えっ!」




 顔を見て、翡翠は硬直する。


 黒い裾の長いワンピースを着た女性は、つばのひろい帽子で顔を隠していたが、それでも翡翠はわかってしまった。なぜなら、ついさっきまで翡翠は彼女のことをうっとりと見つめていたのだから。


 皓介と一緒に、舞台の前で。


 舞台の上にいた歌姫が、翡翠の前で笑っている。




「小鳥遊アマネ……さん?」


「ご名答。さっきまで舞台だったのよ、抜け出すの大変だったんだから」




 変装する暇もなかったから仕方ないわねとひとりごちながら、アマネは翡翠を凝視する。




「……ふふっ、可愛い娘こじゃないの」


「な、なんでアマネさんが?」


「決まってるじゃない。お嫁さんを迎えに来たのよ」




 当然のように告げて、アマネは翡翠の腕を取る。




「さぁ、行きましょう!」


「え、行くって……?」


「話はおいおいしますから」




 強引なアマネに立たされ、翡翠はみどりの侍女へ困惑した表情を向けるが、すでに彼女は自分の役目は終わったとすっきりした顔でアマネに礼をしている。




「では、確かにお渡ししましたので……お嬢さま、ご武運を」

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