覚悟
17:25
葵サイド
夕日が沈み始め辺りがだんだんと暗くなっていく。
銃男に場所を悟られないように基本的に明かりは付けれない。
今の俺にやつと遭遇しても逃げれるかどうかは半々ってところだろう。
俺は今、学園に付属している図書館に来ている。
ずっと周囲を警戒しているから疲労が溜まっているのだろう。
俺の額には大粒の汗が溜まって、滴る。
でも、まだだ。まだ疲れたなんて言える訳ないんだ。やることは山積み。
俺は1度深呼吸をして心を落ち着かせる。
ふぅと息を吐くだけたが、異様に感じられるほどの静かさによってとてつもなく大きな音のように感じる。
図書館にある紙の香りが鼻腔を刺激する度に俺の心は少し落ち着いていくようだ。
島と学園が共同で運営する図書館。4階建てのドーム状の建物で、ここには数万数千の蔵書がある。
ここにある本の数は誰一人として分からない。気づいたら増えて、次の日には増えた分だけ消えてることだってあるからだ。
1階はキッズコーナー。絵本などを中心に子供が楽しめるような本が並んでいる。
2、3階は、小説などを中心に取り扱っている。
そして、俺の目的は図書館の4階だ。
4階は倉庫と予約制の作業部屋が置かれている。
俺の目的は倉庫に置かれている大量の古本と、もうひとつ。
紫苑さんは生前ここでアセビについて学んでいた。もしかしたらアセビの薬がここにあるかもしれない。
それに、ここに置かれる古本は図書館には置かれず廃棄されるものだと前に司書の人に聞いたことがある。つまり、この古本は俺の好きなようにしても大した問題は無い。ということだ。
紙は表面積が大きく重ねればかなりの強度を誇る。それに、紙を投げれば銃男の視界を一瞬だけだが奪うことができる。
案外、利用価値は高いように思う。
俺は少し大きめの袋に10冊程度本を入れその場を後にしようとした。だが、俺は倉庫の中の机にノートが一冊置いてあるのが目に入った。
普通なら廃棄の本を記録してあるノートだろうと考えるだろうが、何故かその中が気になってしまったのだ。
俺はそのノートに手を伸ばす。
そのノートは四隅はめくり上がり、所々汚れなどが見える。
ただ、比較的新しいものだろう。他にも置いてあるノートに比べれば比較的綺麗だ。
ノートを開くと俺は、すぐ何のノートかわかった。
そこには、お父さんやお母さんの名前や、香織の名前。その他にも見知った名前がいくつも書かれていた。
おそらく、これはアセビの感染者名簿だろう。俺の名前が書かれていなかったし、間違いないはず。
ただ、ひとつ。そこに書かれている名前を見て、
俺は手を止めた。
これがもし、本当にアセビ感染者の名簿なら、
ここに書かれている名前が本人のものなら、
俺は様々な思考に襲われる。
ただ、俺の頭の中に過ぎる一番の不安。
それは、香織の事を助けることが出来なくなるかもしれない。ということ。
ふと、後ろポケットのスマホが振動する。
その振動の理由は伊織からの電話であった。
2人と別れる前に情報交換の為に連絡先を交換しておいたのだ。
「葵くん!大変なの!颯太くんが!」
声を荒らげ、涙を浮かべているのか少し震えを感じる。
その異様な雰囲気に心臓がドクドクと音を立て俺は焦りの感情を顕にする。
「颯太に何があったんだ?」
それでもここは冷静にいるべきと自分を律し、心を落ち着かせる。
「颯太くんが胸を押えてすごく苦しそうにしてるの!」
俺は、最低だ。伊織の言葉を聞いて、少し安心してしまった。
なにせ、進藤颯太はアセビ感染者
さらに末期の感染者なのだから。
そしてこれは、俺の推測上の話ではなく、おそらく真実だ。
それを裏づけるように、さっき読んだノートの中には、進藤颯太の文字があった。
俺は、進藤や伊織を利用する気でいた。
ただ、進藤の名前を見た時、進藤に薬を奪われる可能性が出てきた為、
あいつと争う可能性があったのだ。
ただ、
アセビには3つの症状の違いがあり、
その症状が進むと生存者は減っていく。
最初の症状は目眩や立ちくらみのような症状
その次に一度今までの症状が全てなくなり、ほかの健常者と対して変わらない。
そして最後の症状は、呼吸器系へ支障をきたし、呼吸困難や内臓にまで影響を与え、食事をとることさえ難しくなり、
身体中に痛みが響く。
そして、紫苑さんと一緒にいた時によく見た光景。
胸を押え、苦しい苦しいといいながら涙を流す感染者の顔
最後は水すら飲めず、辛くて泣きたくても乾いた体からは涙ひとつ流れなず、死んでいく。
進藤はおそらく、その最後の症状が現れているというのだ。
つまり、進藤に残された時間は短い。
それまで薬を守り抜けば薬は俺のものだ。
ただ、香織はどう思うだろうか。
彼女は自己犠牲の精神が強く。相手の事を最優先、自分のことはその次なのだ。
香織なら、自分より進藤を助けようとする。
俺が進藤を見捨てて、香織を助けようとしたと知ったら香織は怒るだろう。
いや、怒るだけならまだマシな方だろう。
香織は必ずこう言うだろう。
「私は、他人を犠牲にしてまで助けて欲しいとは思わない。葵はすごい人なんだから、私なんか執着しないで沢山の人を救ってあげて」
って。
めんどくさいが、進藤も助けることが今の俺にできる最善なのだろう。
香織を苦しめることなんて出来ないから。
しかしまぁ、俺達は最悪のタイムリミットを設けられてしまったな。
俺は覚悟を決めた。
いや、目が覚めたと言った方がいいのか?
俺は香織だけじゃない。
全員をアセビの呪いから解放する。
*
決意を固めた瞬間訪れた最悪の存在。
ここから、戦果はさらに激しく、地獄へと変わっていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます