第6話

視界の悪さにむしばまれたが、足元のまっすぐな路は、かろうじて見えた。男は一歩ずつ足を踏み出した。

歩きながら男は、脳裏に焼きついたばあばの言葉を思い出していた。


「言葉とは不思議なもので、人の人生を大きく左右する。時には言葉ひとつに救われ、時には言葉ひとつで命を喰らわれる事もある。」


男には、その言葉が胸に突きささっていた。これまでの人生を振り返りながら、ばあばのその言葉に、過去をとても悔やんでいた。


ふと、白く深い霧の中に、ぼーんやりとした小さな灯りが見えた。灯りに導かれるまま、照らされた方へと歩いていくと、提灯ちょうちんろうが灯っていた。

おかしい…骨董屋のある路地裏の道のりよりも、遥かに距離があるように感じた。

いくつかの提灯が灯されており、それを辿って行くと、強い光が差し込んだ。白い光の中を抜けて行くと、そこには空に突き抜けそうなほど、高くそびえた高層のビルがいくつも建っていた。


 (商店街の中…いや、違う…やはりあの世⁈)

男は混乱する。視界に広がる光景は、先ほどまでいたはずの町、商店街の風景とは違う。まるで異国にいるよう。


しかも違和感があった。何か普通の景色とは違う…

はっ!と男は違和感の原因に気がついた。

視界にうつるもの全てが、セピア一色に染まっていた。男はセピア色の建物を見上げながら、一歩、また一歩と、立ち並んだ建物へと近づいていった。


そびえ立つ建物のてっぺんは、セピア色に染まった分厚い雲に覆われ、男は見た事もないそのくすんだ空から目が離せずにいた。


  ”ドンッ”


男の肩に、うしろから何かがぶつかった。

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