第3話

目的の町に着いた男は、骨董屋のある、商店街の奥に進んだ。裏道があるのが見え、男はそこに引き込まれるように角を曲がった。

細い路地裏は、表に比べどこか閑散としていた。


ふと、遠くを見ると、男の目に朱色のものがうつった。鬼灯ほおずきだ!男は真っ直ぐその方向へ足を進めた。

喫茶店でなされていた噂話の中に、店の入り口に、鬼灯の苗木が置いてあると耳にした事を思い出していた。


 「ここだ、ここに違いない!」


男はそう確信した。町の中心から離れた路地裏に、ひっそりとある、歴史を感じさせる骨董屋。


そっと覗くと、薄暗い店内の奥に、椅子に腰かけた一人のお婆さんが見えた。男はお婆さんと目が合った。


「あら、お客さん?…どうぞお入んなさい。」


このお婆さんが、どうやら骨董屋の店主のようだ。お婆さんは、知る者達から、″ばあば″の呼び名で知られていた。


この骨董屋のばあばとの出会いが、男の人生を一変していくこととなる…。



店内には、お洒落な蓄音器にレコード、年代物の壺。ばあばの近くには、子供が遊ぶビー玉やめんこなども置いてあり、骨董屋というよりは、何でも屋に近いように見えた。


「お時間あるなら、腰かけなさいな。どうぞ…。」


ばあばが、微笑みかける。そう言い、古い桐だんすのある店内の奥に見える和室へと案内された。畳に静かに腰をすえた男は、少し緊張感に包まれていた。


噂に聞いて抱いていた印象よりも、物腰が柔らかく、男の目には優しげな雰囲気にうつった。


ボーン、ボーン、ボーン、柱時計の音が店内にこだましている。

足しげく通う客が絶えないと聞いていたが、男は、自分以外に客がいない事に違和感を覚えた。

何を話して良いのやらわからず、店内をキョロキョロ見渡していると、ばあばが男の後ろを指差した。


「あの桐のたんす…古いでしょ。わたしがまだ若い娘だった頃には、既にここにあった物でね。それは、それは、数えきれない程の、たくさんの言霊を見てきた、歴史を刻んだ物なのよ。」


ばあばは、微笑みながら男の目をじーっと見ている。

男はなんだか、心を見透かされているような気がした。

だんだんと激しくなる胸の鼓動を隠そうと、意味がわからずも、ばあばの語りに必死に相槌あいづちをうった。

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