第2話

プシュー(バスのドアの開閉音)。

バスに乗り込む男は、日々の生活に疲れ果てていた。これから、あてもなく放浪の旅に出るのだ。地図も見ず、気の向くまま、行きたい所へ行く。

そう決心した男の顔は、一点を見つめたまま虚ろな表情をしていた。

いくつかバスを乗り継ぎ、見知らぬ町に辿り着いた。

下車してしばらく立ち尽くす。


辺りを見回すと、小さな喫茶店が目にとまった。

「しばらくあの店で休むか」

男は店に入った。


ガチャッ、チリン、チリーン(ドアが開く音)


「いらっしゃーい」

店のおばちゃんの声がカウンターの向こうから聞こえた。

常連らしき客が数名、コーヒー片手に店のおばちゃんと会話に花を咲かせていた。


男は、ガランとした店内の、離れた隅の席に周囲に背を向けるように腰かけた。

そしてアイスコーヒーを注文する。ボーッとしながら店内を見渡した。

会話で盛り上がる客達とは対照に、アイスコーヒーを飲む男の背中は寂しげにうつる。

楽しげな笑い声が店内に響いている。


「あはははは……、あっ、そういや、この間の話、あれからどうなった⁈」


客の中のかっぷくの良い中年男性がそうきりだす。


「この間の話⁈ああっ、あの骨董屋の事かい⁈行ったって無駄だよ〜。なんって事ない普通の婆さん。」

店のおばちゃんがそう答えた。


先ほどまでの店内の空気が変わった事を、男は背中で感じとった。冷えたコップを口にしたまま、思わず、じっと耳を傾ける。


客達の会話から、不思議な力のあるお婆さんの話をしているのが理解できた。

なんでも、運が良ければ、そのお婆さんから不思議な話を聞かせてもらえ、摩訶不思議な夢を見る事ができた者だけが、願い事が叶うらしい…と。


喫茶店の客達も、それ以上の詳しい話は知らないようだが、さまざまな噂が絶えず、骨董屋の噂話で盛り上がっていた。


派手な看板はないが、目印の鬼灯ほおずきの苗木が入り口に置いてあり、商店街の中心から外れた古びた店にも関わらず、足しげく通う客人があとを絶えないという話だ。


静かに聞き耳をたてていた男は、ふと思う。その骨董屋に行ってみたいと。


そして、そこを”最後の目的地”にしようと…。

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