ことば遊び

NANKICheese

第1話


  【ことば遊び~ことわざの世怪】


ボーンボーン、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ…古い柱時計の、時を刻む音が響いている。


その隣には、古い年代物の椅子に腰かける一人の男がいた。60ほどの年であろう、その男の名は、哀縞かなしま 酉之心とりのしんという。


哀縞はじーっと目を閉じ、過去の記憶を思い出していた。脳裏にふと浮かぶ、ある人の言葉。


『言葉は、形のない財産。それを決して、忘れてはならない。』

瞼の裏に見える、ほほ笑みを浮かべたお婆さんの姿。

お婆さんとは、ばあばと呼ばれていた骨董屋の前主人ぜんあるじ、山田テルである。



【過去を思い出す…巻き戻しのような走馬灯の画が流れる】



(セミの鳴き声)ミーンミーンミーンミーンミン、ジジジジジジジ————………

容赦なく照りつける太陽の下、田んぼと畑に囲まれた田舎道を、一人の若い男が歩いていた。

アスファルトから跳ね返る灼熱しゃくねつの暑さに、今にも崩れ落ちそうなほど体力を奪われていた。


「あ……あづい…」


男はどれぐらい歩いただろう。周辺には、店はおろか自販機すら見当たらない。

空になったペットボトルを、何度も何度も逆さまにする。わずかな一滴の水分を舌に感じながら、カラカラの喉を、ぐっと飲み込みんだ唾でしのいだ。

両足には、まるで見えない鉛の足かせがついているようだ。今にも叫びたくなる程の不快な感覚を、全身に味わいながらも、男はその歩みをやめようとはしなかった。

どうしても辿り着きたい場所があるからだ。


砂漠にも似た灼熱地獄、真っ直ぐな道は、蜃気楼で小刻みにリズムを刻んでいた。

その奥に、ゆらゆらと浮かび揺れている小さな町並みが見える。


男の目は見開き、少し表情に明るさが見えた。

やっと着いた…、目的の街に着いたのだ。足どりが速くなる。


(荒い息)「はっ、はっ、はっ…はっ……」


先ほどまでの重い足どりはそこにはなかった。我も忘れ行き咳かける。


「はっ、はっ、はあ、もう少しだ」


近づくにつれ、にぎやかな声が聞こえた。声の方に導かれるままに足を運ぶと、そこには老舗の商店街があった。


「ここ…か?あの店があるのは。」


商店街に入り、店の看板を順番に見ていく。

そう、男はある店を探していたのだ。



とても、摩訶不思議な骨董屋を…。

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