第7話

「ま、でもヨリも制服似合ってるじゃん。到底トキには及ばないけど」


「お前は全然似合ってねぇな?服に着られてる感がハンパじゃねぇわ」


とはいえこういうのは割と本気でムカつくもの。


大して中身の入っていない鞄を両手でしっかり後ろに振りかぶると、私はそれをその背中に勢いよく叩きつけた。


そんな私にヨリは「暴力女」と相変わらずな小言を小さく呟いて、トキは依然楽しそうに笑っていた。



なんだか冷静になって考えてみると感慨深い。


昔は私の方が背が高かったのに、今となっては二人ともしっかり見上げなきゃうまくなんて話せない。


時間の経過ってダテじゃないなぁ。



「トキ、もう行くぞ。入学早々遅刻するわ」


今度は私に背を向けるようにトキの方を向いてそう言ったヨリは、トキの「うん」という返事を聞くとすぐに駅に向かって歩き出した。


それに続くように歩き出したトキは、三歩ほど進んだところでいまだ立ち止まっている私の方を振り返った。


「行こう、イト」


「…うんっ…!」


新しい生活が始まる。


これから一体どんな楽しいことが私達を待っているんだろう。


並んで歩く二人のトキ側へと私も並べば、少し不満そうな顔をしつつもヨリがそれに対して私に何か言うことはなかった。



———…あ、そうそう、あれだ。思い出した。


きっかけは中二の夏休み直前の体育の時だ。


私がナントカちゃんの走り方が面白くて笑って、そしたら思いの外周りが“ひどい”とか“最低”とか言い始めて。


“それに同じマンションに住む幼馴染ってだけでトキとヨリにも馴れ馴れしいし”ってなって…


で、なんか次の日には簡単に私と話すなっていう流れができてたんだ。


きっかけと後半に出てきた理由の関連性なんてこの際どうでもいい。


きっとみんな私を嫌うそれらしい理由をずっと探していたのだ。



“みんなのトキ”だから。


その隣が許されているのは“ヨリだけ”だから。



よって、そんな二人のそばにいることは許されない。


その見えないルールをずっと犯していた私がいよいよ一人になったところで、それはいわば必然のようなもの。


出ていた杭がようやく打たれたという、ただそれだけの話だ。



けれど私は決してひとりぼっちではなかった。



「イトー、お前高校でもまたハブられんじゃね?」


「こんなめでたい日に嫌な思い出を蒸し返すのやめてくんない?」


「巻き込まれたくねぇから学校では俺らについてくんなよ?」


「行くし」


「あー、くせぇくせぇ、金魚のフンくせぇ」


「いい加減うるさいんだよ、あんたは!」


「事実じゃねぇかよ。お前は自分だからそのクサさに気付いてねぇんだ。消臭スプレー持ってくればよかった」


「はぁ!?」


「さすがにヨリ言い過ぎ。イトはクサくなんてないしクサかったことだって一度もない」


トキの鶴の一声でようやく静かになったヨリは、少し不満そうな顔でトキを見ていた。

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