第8話
「ははっ、ざまあみろ!」
ヨリにトキのような可愛げがないから私もそうなるのか、単純にヨリにどう思われてもどうでもいいからそうなのか。
この小生意気な顔を見ると思ったことすべてが口に出る。
いつからだっけ。もうはるか昔すぎて忘れたな。
今でこそヨリともそれなりに仲良くしている私だけれど、同じマンションに住んでいようともたぶんトキがいなかったら私とヨリは仲の良い幼馴染になんてなっていなかったと思う。
…たぶん。
「イトも。今のは余計だよ」
「………はい」
そんな私達を繋いでくれているのはやっぱりトキで、この王子様のような存在がタイプの違う私達三人のバランスを絶妙に保ってくれている。
優しいクッションのような、春の柔らかい陽気のような、もしくは高級潤滑油のような…
ここはあまりにも居心地がよく、落ち着く場所。
まさに平穏。
だから女の世界のそれより、私にとっては三人の世界の平穏の方が大切だった。
よって、私はそれなりに寂しい中学時代を送ることとなった。
ヨリはこんな奴だからきっとその理由になんて気付いてもいない。
もちろんここでいうところの“理由”は、私がナントカちゃんの走り方を笑ったことなんかじゃない。
あの時トキは私を庇ってくれたけれど、なぜかその結果トキの株はまた上がり私の嫌われ度は倍増した。
意味は分からないけれど理解はしている。
人とはそういうもの。
人間関係って難しい。
だけど環境は変わる。
私達は今日から高校生だ。
「ヨリんとこは入学式親くんの?」
三人で並んで歩きながらそちらを覗き込むように私が聞けば、トキの向こうにいるヨリは正面を向いたまま「来る」と言った。
「お父さんとお母さんどっちも?」
「どっちも」
「なら一緒に行けばいいのにー」
私のその言葉に、ヨリはようやくこちらへと顔を向けた。
「そしたら晴れて私はトキと二人で」
「誰が高校生にもなって親と登校だよ」
私の言葉を遮り眉間にシワを寄せたヨリに、トキは困った顔で笑っていた。
“また始まった”って顔に書いてある。
「空気の読めない男だねぇ」
「空気が読めてねぇのはお前だ」
「どこがよ」
「この現状の全てがそうだろうがよ」
「あんだと!?」
「二人は本当に懲りないなぁ」
「……」
「……」
鶴の一声の威力はいつだって絶大だ。
私とヨリに挟まれたトキが私達に構うことなくマイペースに笑うから、なんだか一気に全てがどうでもよくなる。
それはもちろんいい意味で。
ヨリだって同じことを思っているはずだ。
私達にとってトキの笑顔は癒しそのものなのだ。
ヨリに関してはトキと住んでいる部屋が隣同士で私が二人と仲良くなるよりも前から遊んでいたというのもあるんだろうけれど、なんだかそれだけではないように感じている。
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