第5話

「犯人って何のこと?」


「お前のせいでエレベーター全然来ねえからもう階段で降りてきたわ。二階から一階に降りるくらいでわざわざエレベーター使うなよ」


「いいじゃん別に。それで言うなら五階に住んでるヨリが悪いよ」


「はぁ?お前それトキにケンカ売ってんのか」


「え?僕?」


急に名前を出されたことに、トキはキョトンとしながら目を丸くしていた。


「だってお前も五階じゃん」


「あ、そっか」


「そっかって…」


「んなわけないじゃん。バカじゃないの?」


「バカとかお前にだけは言われたくない」


相変わらず口の減らないヨリをもう気にすることなく、私は顔をしっかりとトキへ向けて口を開いた。


「トキ、二階はいいよ?忘れ物してもすぐ取りに行けるし」


「それは本当に羨ましい」


トキはそう言って私に嫌味のない笑顔を向けた。


「夏は上より下の方が涼しいし」


「その分虫は上より出やすいけどな」


しっかりトキの目を見て話す私になぜかヨリがそんな言葉を返したかと思うと、ヨリは続けて「てか五階と二階じゃあ暑さなんかそんな変わんねぇよ」と言った。


「家賃だってちょっと安いんだから」


「払ってんのお前じゃねぇだろ」


「ヨリもいないから静かだしね」


「トキはお前がいるから嫌なんだよ」


「トキは嫌なんて一言も言ってないじゃん。ねぇ?」


半ば押し付けのようにそう聞いた私に、トキはやっぱり嫌味の無い笑顔で「うん、全然嫌じゃないよ」と言った。


「俺よりは嫌だろ?」


「僕はどっちの部屋が近くても嬉しいけど?」


「いやいや、俺がこいつに並ぶとかありえねぇだろ…」


信じられないと言った顔で固まりショックを受けるヨリに、私は内心笑いが止まらなかった。


ちょっと考えれば分かるじゃん。


どっちが上かなんてことはもちろん、トキが私達のどちらかに“嫌だ”なんて言うわけない。


だからこその“癒し”だし“結婚したい”なのだ。


「空きが出たらこっちに引っ越しておいでよ」


「え?」


「はぁ!?」


何であんたが言われた本人以上にびっくりしておる。

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