第4話
「トキ制服だね」
「イトも制服だね」
「当たり前じゃん。今日入学式だもん」
「その言葉そっくりそのまま返すよ」
そんなくだらない会話に、私達はどちらからともなく笑った。
トキの笑い方が好きだ。
声だってもちろん大好きだ。
優しくて柔らかくて、髪だって生まれつき毛先がくるんとしてて見るからに柔らかくて。
たぶんトキの全身からはマイナスイオンが出ている。
「トキ、ブレザー似合ってる。てか超カッコいいよ」
「そう?ネクタイ慣れないけど。イトは可愛いよ。リボンも良い感じだね」
「うん!この制服が着たくて受験頑張ったまである」
「ははっ、マジか。でもスカートは気をつけなね」
「スカート?」
「中学の時より短いから。これまでと違って高校では電車通学になるんだし」
ほら、こんな言葉だって。
言葉選びのおかげもあるのかもしれないけれど、マイナスイオンが出ているトキが言えばヤラしさなんて微塵も感じない。
結婚するなら絶対トキみたいな人がいい。
初めてそう思ったのはたぶん小学生になるよりも前だった。
「うん、ありがと。てか学校行かないの?」
「ヨリが携帯がないって言って取りに戻ったから待ってるんだよ。イトと一緒のエレベーターで戻って来るかもって思ったけど違っ」
「マジ!?」
トキの言葉を遮った私は、その勢いのままにトキの左腕を左手で掴んだ。
「え?うん、マジだけど」
「ラッキー!よし、今のうちに先行っちゃおう!」
「いや、ヨリにここで待っててって言われたよ」
「子どもじゃあるまいし放っときゃいいよ!ねっ?」
「でも僕がいなくなってるとヨリ探すかもしれないでしょ」
「じゃあライン入れとこうよ。先行くからねーって。それで何の問題も」
「待てコラ」
ぐいぐいとトキの腕を引く私に聞こえたその声に、私はピタリと固まり思わず小さなため息を吐いた。
くそ…間に合わなかった…
トキの左腕を掴んだまま振り返ると、同じようにトキもそちらに顔を向けた。
「聞こえてんだよ、チビ」
こちらに来るなり私にそう言ったヨリに、トキは私に腕を掴まれたまま笑顔で「携帯あった?」と聞いた。
「おう、充電器に差したまんまだった」
そこまで言ったヨリは、トキからこちらに顔を向けると「つかお前か、犯人は」と言いながら割って入るようにトキの腕を掴む私の手をチョップした。
「その汚ない手を離せ」
その失礼極まりない発言も鼻につくけれど、それより今気になるのはさっき言われた“犯人”の方だろう。
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