第20話

「ご相伴に預かります」






わざと丁寧に返してみれば、嬉しそうに笑って今度は女に話し掛けた。








「奈々ちゃん、ちょっと待ってて。すぐに作ってくるから」



「はーい」








颯爽と、自分の部屋に繋がるドアから出て行くよっちゃん。







気まずい。






陽気なレゲエが流れる下で、無言の二人。








ついさっき、プロポーズから別れ話までを公衆の面前で繰り広げてた女。



そして、ついさっき別れを切り出した俺。







俺たちが友達だったと仮定したら、話すネタなんて尽きること無さそうな二人のはずなのに、沈黙しか広がらない。







ジョッキを持ち上げたのか、カランと氷がグラスの中で落ちていくのがやけに響いて俺を後押しした。








思い切って顔を横に向ければ、思った以上に綺麗な顔をしている。





上手い具合に整ったパーツが小さな顔に収まっていて、伏せられた長い睫毛が影を作っている。



日焼けなんてしたことのないような白い肌。



カタログを眺めているどこか儚げなその横顔は、ただただ色気に溢れている。

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