第11話

その気持ちが可愛いと思ったし、嬉しかった。







「………どうしょうもなくて」



「うん、分かってる」









役をもらうための枕営業なんて、言ってみたら自分だけに用意してもらった“特別オーディション”だとすら思っている。





正直に言えば、俺だって同じ状況に陥ったら、千春と同じ事をすると思う。







良い役を貰えるなら、いくらでも俺の身体くらい差し出してやる。










有難い事にそんな状況になったことがないだけで、チャンスならそれがどんな手段であれ、犯罪じゃなければ取らなければ芸能界で成功なんて出来るはずがない。





汚いと言われようと、蔑まされようと、綺麗ごとだけで上に上がり、確固たる地位を築けるのは本当に一部だけだから。








「お願いっ!許して!もう絶対にしないから……」









千春の涙に暮れた懇願が冷ややかに鼓膜を揺さぶるのに、俺の感情は一つも揺さぶられない。





視界に入る看板たちを無意識に確認しながら、千春に口を開いた。

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