第10話

去ってゆくタクシーをぼんやりと見つめながら、スマホを取り出し千春に電話を掛けた。







2コールもしないで、千春の嬉しそうな声が聞こえる。







「もう会いたくなっちゃった」







可愛らしいなと相変わらず思わない事はないけど、もうめんどくさい。




目的地にゆっくりと歩みを進めながら、静かに口を開いた。







ここは、きっぱりさっぱり別れておこう。









「俺たち別れる事にしたから」



「…はっ?え?なんで?」






電話口からは焦った声が聞こえる。










「冗談でしょう?ちゃんと会って話そうよ」



「無理。別れる相手にわざわざ会うリスクなんて取りたくないし。それに千春だってドラマの出演決まったんだろ。タレントからやっと女優への一歩踏み出したのに、こんなとこでつまんない記事にされる必要ないし」



「お願いだから、そんな事言わないで……」








焦った声がだんだんと涙声になってきている。






そんな声すらも他人事に聞こえて、いつも通りに路地を左に曲がった。










「理由知りたいなら言うけど、お前が他の男とやったの知ってる」



「……それはっ!!」








千春が俺を好きでいてくれた事は知ってる。

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