第3話

店中の視線が集中するなか、仕立ての良いスーツを着て端正な顔立ちの男の良く通る声が聞こえてくる。








どうやら、いつの間にかBGMも止まっていたらしい。







「結婚しよう」









何の飾り気もないけれど、真摯で気持ちがまっすぐに伝わる言葉。








全然関係のない俺だけど、つい応援したくなってしまう。









男は、ポケットから小さな箱を取り出し、パカッと箱を開けた。






おおお!きたきたきた!









彼女の前に差し出すと、嬉しそうに微笑んで、優しい眼差しを彼女に向けた。







この世に生を受けて28年、生まれて初めての生プロポーズ。




そんな珍しいものに遭遇してテンションも高々と上がっていく。









時間にして、まだ5秒も経っていないはずなのに返事を待つ時間は5分にも10分にも感じる程、異様に長い。



隣の柴田さんからもごくりと息を呑む音が聞こえた。








頑張れ、頑張れ。






無意識に拳が硬く結ばれていく。










心の中で、彼らの幸せを応援していると今度は透き通った耳障りの良い声が鼓膜を揺らした。









「ごめんなさい」









幼稚園児でも言えるようなシンプルな一語が、店内をこれ以上ないほどに気まずい雰囲気に浸食していく。

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