あらすじ
あらすじ
呪いを振りまく【死神】が巣食うナギア国。
王族を守護する聖女フェルマータは、婚約者であった王子を庇い、20歳の誕生日に命を落とす呪いを受けてしまう。
呪いを理由にあっさりと聖女の任を解雇され、さらに婚約破棄をされ、限りある余生を森の聖域でひっそりと過ごすこと3年――。
人々から聖女であったことなど忘れられ、【森の魔女】と畏れられるようになってしまったフェルマータは、人々を恨みながら最期の誕生日を迎えようとしていた。
「どうせ同じ呪いを受けるなら、不老不死の呪いがよかった。こんな短い人生、あんまりだわ」
嘆く彼女の前に一人の騎士が現れる。
「聖女。俺の妻となり、俺の呪いを解き、俺を殺せ」
偉そうに訳の分からないことを言う彼をフェルマータは拒絶する。そして、こんな頭の可笑しい男に絡まれてたまるかと、聖域を飛び出し森の中へ逃げ込む。
しかし、聖域の外にはフェルマータを狙う武装商人たちが蔓延っていた。
なんと、魔女の遺体をミイラにすることで魔除けになるという噂が流れており、フェルマータは捕獲の対象となっていたのである。
武装商人たちに囲まれ、絶対絶命のフェルマータ。背中を暴かれ、【砂時計の刺青】が顕わになる。
同時に「死にたくない」と、強く自覚する。
そんな彼女の前に再び現れた男は、フェルマータを庇って凶刃を胸に受ける。しかし、心臓を貫かれてもひるまない。
「死に損なうのは何度目か。……貴様らには礼として、この狼の牙をくれてやる」
フェルマータは彼の手の甲に【砂時計の刺青】を認め、彼が【不死の狼騎士】ヴォルフであることに気がつく。
【不死の狼騎士】ヴォルフは、北の辺境ノースト領を治める騎士伯爵であり、200年間生き続けている呪われた化物――。
彼の噂を思い出し、恐怖を感じるフェルマータ。
実際、武装商人たちの数多の刃を受けながらも剣を振るう彼の姿は、化物のように見えてしまう。
そして、ヴォルフに関わりたくない気持ちがいっそう増し、混乱に乗じて逃げようとするフェルマータ。
しかし、あっという間に武装商人たちを斬り伏せたヴォルフは、フェルマータに追いつくと軽々と担ぎ上げてしまう。
「ちょ……! 下ろしなさいよ! 不本意だけど、今日は私の命日なのよ!」
月が空の真上に昇り、今日(誕生日)が終わることを悟ったフェルマータは、よく知らない男の腕の中で死ぬのかと涙する。
同時に背中の【砂時計の刺青】が燃えるように熱くなるのを感じ、死の前兆かと覚悟するが。
月が傾いてもフェルマータは生きていた。
「私、生きてる! 誕生日を越えて生きてる!」
驚き戸惑いながらも喜ぶフェルマータ。
ヴォルフに「よく分からないけど、ありがとうございました。では、私はこれで!」と礼を言って去ろうとするが、彼は放してはくれない。
「ノーストに行くぞ。今日は俺と貴様の結婚記念日だ」
ヴォルフは飛竜を駆り、半ば誘拐のような形でフェルマータを連れ帰ってしまう。
夜空にフェルマータの悲鳴が響く。
ノースト領ブレンネル屋敷に連れてこられたフェルマータ。
乱暴に飛竜から降ろされ、足ががくがくの状態でベッドルームに放り込まれてしまう。
ヴォルフは「貴様に愛をくれてやる。故に、相応の愛を俺に返し、俺の死なせろ」と、理解不能なことを言いながら、ベッドに乗り上げてくる。
(ナニコレ、怖いんですけどーー!)と、フェルマータは暴れるが、簡単に押し倒されてしまい――。
あわや貞操の危機というタイミングで、ベッドルームの扉が荒々しく蹴り開けられる。
「ご自重なさいませ、ヴォルフ様!……聖女様、我が主の無礼をお許しください。やや思考のねじが飛んでおります故」
「ヴォルフ様、まじで引くんですけど」
ヴォルフの側近レドリックと彼の妹ブルーナのおかげで、危機を逃れたフェルマータ。
その後、応接室に通されレドリックより事情を聞かされる。
【死神】の呪いは、他者からの愛によって少しずつ解けていくこと。
ヴォルフは不老不死の呪いを解き、死にたいと思っていること。
同じく呪われているフェルマータであれば、WIN-WINの関係で呪いを解くことができると考えたこと。
「って、何がWIN-WINよ! 誘拐した上に、押し倒してきた人と愛し合うなんて無理!」
「心中お察しします。……が、貴女様と主の【砂時計の刺青】に変化があります。これこそ、お二人が運命の相手であることの証明にほかなりません」
レドリックに促され確認すると、フェルマータの砂時計にはわずかに砂が上部に戻り、ヴォルフの方はわずかに砂が下部に落ちているではないか。
(どこに愛があったっていうの?)と、ギョッとするフェルマータだが、ヴォルフと出会ったことで寿命が延びたことは認めざるを得ない。
一方ヴォルフは、「解呪に協力しないと言うのであれば、武装商人の元に遺体を突き出す」と、物騒な脅しを口にする。
死にたくはないし、生きて国の連中を見返してやりたい。けれど、化物と名高い【不死の狼騎士】を無理矢理愛したくもないフェルマータは、(私にベタ惚れさせて、私の呪いだけ解こう。私は絶対好きにならないから!)という胸の内を隠して契約結婚を了承する。
ヴォルフの妻としての生活が始まった。
自分の美貌と愛嬌に自信のあるフェルマータは、すぐに呪いが解けるだろうと高を括っている。
しかし、朝からヴォルフの姿が見えない。
レドリックにヴォルフはまだ寝ているのかと尋ねると、「起きておられますよ。そもそも睡眠を取られません」。
食事には現れないのかと問うと、「気が向いた時だけ、召し上がられます」。
不老不死だからと言って、不健康にもほどがあるぞと驚くフェルマータ。
いつか、私の手料理で胃袋を掴んでメロメロにしてやろうと思案を巡らす。
(死にたいなんて、余命僅かな私の前で、よく言えたものよね)と、ヴォルフに対して不満を抱いており、やはり自分は彼を愛するつもりはない。
(そもそも、王子との一件で、もう恋だ愛だなんてこりごりなんだもの)と。
そして、屋敷の敷地内にある墓地で祈りを捧げるヴォルフを発見する。
200年生き続け、親しい人たちを見送って来たであろう彼の心中を想像し、フェルマータは胸を痛める。
「ヴォルフ様。ご家族やご友人方へのお祈り、私もさせていただいても?」
「ご家族にご友人だと? 俺の祈りは兄上ただ一人のものだ。他の有象無象のことなど知らん」
兄への祈りの時間が一日三回あること。兄のためにブレンネル家の家督を引き継いだこと。如何に兄が聡明な人格者であり、優れた領主であったこと。兄のいない世界など、生きる価値がないこと等をヴォルフは語る。
フェルマータは(この人、重度のブラコンじゃないの!)とギョッとしつつも、ビジネスラブだと自分に必死に言い聞かせ、無垢な笑顔で領地を案内してほしいと願い出る。
「いいだろう。兄上の領地を見せてやる」
ヴォルフの言葉に(また兄上かよ!)とうんざりしかけるフェルマータ。
しかし、差し伸べられた彼の手を取ったかと思うと、ひょいっと身体を持ち上げられ、お姫様抱っこされたではないか。
どういう状況ですかと恥ずかしくて慌てるフェルマータ。
実はフェルマータは男性とのスキンシップ経験がほとんどなく、王子とも婚前だからとプラトニックな関係を貫いていたのだ。
だが、ヴォルフはあっけらかんとしている。
「愛する女性は、抱いて移動するのが一般的だと兄上の蔵書で読んだぞ。違うのか、聖女」
「違いますよ! 何ですか、その本!」
「俺は、兄上の言葉以外信じない」
「ブラコン末期!」
ヴォルフを思うように転がせず、「運命の相手(?)が、ブラコンで恋愛感覚がバグっていているなんて、聞いていないんですが」と気絶しかけるフェルマータであった。
側近のレドリックを伴い、フェルマータとヴォルフは町に出る。
ノースト領は北の国境を守る要塞都市であり、騎士団や彼らを補助する商人が多く暮らしている。
見ていると、領民たちはレドリックには明るく挨拶をしているが、ヴォルフに対しては塩対応。
その理由は「領民は、俺を化物だと畏れているから」だと本人が話す。
老いず死なずの最早人間とは呼べない領主を喜ぶ者などいないため、表立っての公務はレドリックに任せ、自身は100年ほど前から裏の仕事に徹しているという。そのため、ヴォルフの姿を見ても領主だと認識する者はいないのだった。
それなりに豊かな様子の領地を見ていると、ヴォルフはいい政治をしているはずなのに、それでいいのかと複雑な想いになるフェルマータ。
だがヴォルフは、「元々、兄の領地だ。俺は兄の代わりに過ぎん」と気にしていない様子。
町を散策していると、フェルマータとヴォルフは【死神】の気配を感じ取る。領民の危機だと判断したヴォルフは、単身で【死神】の元へと向かおうとする。
単独行動を諫めるフェルマータだが、彼は「兄上の民を呪いの前に晒す訳にはいかん」と飛び出して行ってしまう。
レドリックによると、ヴォルフは200年の間、人知れず【死神】を一人で退け続け、領民を守っているという。だから、ノースト領には被呪者はヴォルフしかいなかったのだと。
ヴォルフがはるばる森まで花嫁探しにやって来た理由と、彼が領民を大切にしていることを知り、フェルマータの足は止まる。
王都には、呪いのせいで命を落としたり、差別を受けたりする人がごまんといるのだ。
フェルマータ自身も、呪われたことや王子に捨てられたことを恨んでいるだけで、何もせずに3年過ごしてきた。誰かを守ろうなどという発想にはならなかったのだ。
フェルマータは(誰が化物よ。私よりも聖人君子みたいな人じゃない)と、ヴォルフのことを想い、居ても立っても居られなくなり、加勢に走り出す。
フェルマータが駆けつけると、ヴォルフが【死神】の眷属の魔物を倒し終えたところだった。だが、勝利したものの酷い怪我を負っているため、フェルマータが神聖術で治療を行う。
ヴォルフは「俺は不死だ。放っておいてもかまわん」と拒絶しようとするが、フェルマータは了承しない。
「死ななくても、痛みはあるでしょう? 体も心も。せめて、体だけでも癒させてください。一応、妻なんだし……」
一方のヴォルフは、「そうか。妻とはそういうものなのか」と、戸惑ったような表情を浮かべている。
同時に、二人の【砂時計の刺青】が熱を帯びながら光を放ち、砂が動き出す。
フェルマータの砂は上部へ、ヴォルフの砂は下部へとそれぞれ少しだけ移動した。
「これが愛し合うということか? フェルマータ」
「こ、こんなのまだまだですから! ちょっと親しくなった程度ですから……!」
初めて名前を呼ばれ、照れてしまうフェルマータの中に、ヴォルフのことをもっと知りたいという気持ちが芽生える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます