第1話シナリオ

第1話


■場所:ナギア城大広間

フェル〈三年前――。私は何もかもを失った。地位も、名誉も。愛さえも――〉


たくさんの王族や貴族の中心で、フェルマータとケビン王子が向かい合って立っている。

フェルマータは絶望の表情。


フェル「今なんと?」

ケビン「何度でも言おう。被呪者フェルマータ・ルークライトを守護聖女の役から解任。そして、僕との婚約も白紙に戻す」

フェル「そんな! 私は、貴方を守って呪われたのに」

ケビン「呪いというだけでも汚らわしいのに、三年後に死ぬ女と結婚できるわけがないだろう。早く消えてくれ」


モブ貴族「呪いがうつると困るわ。離れましょう」

モブ貴族「あの化物狼と同じということか?」

モブ貴族「王子様じゃなくて、あの女でよかった」


王子の憎々しげな視線と周囲の冷ややかな空気に、フェルマータは怒りのこもった涙をにじませる。


フェル〈許さない……!私を呪った【死神】も。裏切ったケビンも。貶めた国も、全部……!〉

フェル〈お願い。誰か、私に生きていていいって言ってよ……〉


そして時が流れ――。




■場所:森の聖域の神殿(夕方)

フェルマータ、一人で誕生日ケーキ(ホール)を泣きながら食べている。


フェル〈みなさん、こんにちは。私はフェルマータ。なぜ私が泣いているかって?〉

フェル〈ええ。本日私は20歳の誕生日を迎えたと同時に、余命僅かになったからです〉

フェル〈私、死ぬ呪いをかけられているんです〉


三年前の王城で、【死神】から王子を庇って呪いを負った時のことを回想するフェルマータ。


フェル〈あのクズどもを私は許さない。……けど、もう何もできやしない〉


フェル「どうせ同じ呪いを受けるなら、不老不死の呪いがよかった。こんな短い人生、あんまりだわ!」


嘆くフェルマータの元に、突然騎士装束の男が来訪する。


男(ヴォルフ)「貴様が呪われた聖女だな」

フェル「誰? どうやって神殿に入って来たのよ。結界は?」

男(ヴォルフ)「気合いで突破した」

フェル「致命傷は免れない結界なんだから、あり得ないわ」

男(ヴォルフ)「五月蠅い。要件を聞け、聖女。俺の妻となり、俺の呪いを解き、俺を殺せ」

フェル「へ?」


目がテンになった後、冷静になったフェルマータは、ぶんぶんと大きく首を横に振る。


フェル「私、死ぬ予定が入っているのでお断りします」

男(ヴォルフ)「待て!」


フェル〈どうせ死ぬなら、静かに死にたいもの。こんな訳の分からない男と話してる時間なんてないわ〉


フェルマータは、神殿を飛び出し森の中へ逃げ込む。




■場所:森の中

フェル〈ここまで来れば、もう安心。あれ、なんだか森が騒がしいな……〉


木々の間から先を覗くフェルマータは、武器を持った大勢の商人(武装商人)たちの姿を見つける。


武器商人1「魔女の遺体をミイラにしたら、魔除けになるってほんとかよ?」

武器商人2「あぁ。教会で聞いたんだ、間違いねぇ。【森の魔女】を干物にして、【死神】除けとして売りさばこうぜ」


フェル〈なんだそれーー! 初耳なんですけど!〉


慌てて逃げ出そうとするフェルマータだったが、カサリと葉音を立ててしまい、武装商人たちに気がつかれてしまう。


武器商人3「いたぞ! 魔女だ!」

武器商人4「ぶち殺してミイラにするぞ!」

フェル「ミイラなんて嫌ーーっ!」


武装商人たちに囲まれ、絶対絶命のフェルマータ。

背中を剣がかすめ、ワンピースの後ろが破れてしまう。


フェル「いや……っ!」

武装商人3「あ? 背中になんか刺青があるぞ」

武装商人4「【砂時計の刺青】だろ。【死神】に呪われると浮き出てくるっつうやつだ」


【砂時計の刺青】――。

それは、【死神】によるマーキング。命の残量を示す生きた刺青。


フェル〈私の命の残量は――〉


武装商人4「ぜんぜん砂が残ってねぇ! この魔女、すぐにでも死ぬぜ!」

フェル「そうよ。私は今日死ぬのよ! 20歳の誕生日に死ぬ呪いなんだから!」

武装商人4「へぇ。じゃあ、尚更逃げるなよ、魔女。オレらがサクッと殺してやるからよ」

武装商人1「ははは。魔女狩りだな」

フェル「…………っ」


涙を浮かべ、唇を噛みしめるフェルマータ。

剣が振り上げられる。


フェル〈悔しい……! 私は魔女なんかじゃない。私は……、私は……〉


男(ヴォルフ)「聖女。こんなところで死んでもいいのか?」

フェル「死にたくないに決まってるでしょ!」


グサリという肉を割く音がしたかと思うと、先程神殿に現れた騎士がフェルマータを庇って凶刃を胸に受けている。


フェル「うそ……。心臓に……!」


男が刺され、青ざめるフェルマータ。

しかし、男は苦痛に顔を歪めるものの、倒れることはなく自らの長剣を抜き放つ。


ヴォルフ「死に損なうのは何度目か。……貴様らには礼として、この狼の牙をくれてやる」


男の右手の甲には、砂が上部に満杯状態の【砂時計の刺青】が刻まれている。

それに気がついたフェルマータは、ハッと息を呑む。


フェル〈まさか、あの【不老不死の狼】ヴォルフ⁈〉

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